2024年12月27日(金)
統治崩壊 GPIFは大丈夫か(下)
金融業界はみんなお友達
250兆円超を金融市場で運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)。1月に亡くなった経済評論家の山崎元氏はかつて、GPIFの持つ情報について「管理するにはあまりにも大きな意味のある情報だ。漏れないわけがない」と本紙の取材に語っていました(2014年7月14日付)。
「金融業界はみんなお友達でつながっている。公的な買いがいくら入ったとか、後これくらい入るといった情報は、必ず市場に出回る」とも。同氏は、長く金融業界に身を置き、GPIFのあり方を検討する厚生労働省の会議のメンバーも務めた資産運用のプロです。
調査の過程でも
内規を無視して国債取引を2証券会社に独占させ、そのうち1社にはゴールドマン・サックス証券時代に知り合った役員を通じて将来の投資行動に関する情報を伝えていたというGPIFの植田栄治最高投資責任者の行動は、山崎氏の警鐘を思い起こさせます。
GPIFの宮園雅敬理事長も、2社への取引集中は「外形的に癒着が疑われるケース」だと認めています(3月25日の経営委員会)。
国民の財産を運用する最高投資責任者に重大な疑惑が生じた以上、GPIFには徹底的な調査・解明と、国民に対する説明責任が生じます。しかし、この調査の過程でもGPIFは統治不全を露呈させます。
4月の経営委員会の議事概要には、昨年12月の内部通報以降「調査の進捗(しんちょく)や結果について随時照会」したにもかかわらず、調査結果が出るまで中間報告がなかったと批判する委員の発言が載っています。発言者は匿名ですが、6月に出た監査報告などから監査委員の尾﨑道明氏であることが分かります。
監査委員は執行部を監視し、不正行為を認識したときは直ちに所管大臣に報告する義務を負います。そのため監査委員には、いつでも執行部と職員に報告を求めることができる権限が与えられています。
調査の主体にも問題があります。今回調査の指揮を執ったのは監査委員ではなく、執行部の下部に置かれたコンプライアンス・オフィサーでした。理事でもある植田氏の疑惑を、理事の下部に置かれたコンプライアンス・オフィサーが調査したのです。また、調査実務は外部の法律事務所に委嘱したものの、第三者委員会は設置しませんでした。
日本弁護士連合会は10年の「企業不祥事等における第三者委員会ガイドライン」の策定に際し、内部調査では調査の客観性が担保できないので「不祥事によって失墜してしまった社会的信頼を回復することは到底できない」と強調。内部調査に弁護士が参加すれば調査の信頼性は高まるが、社会に対する説明責任を果たすことは困難だとし、組織から独立した委員で構成する第三者委の重要性を指摘しています。
容認する厚労省
厚労省は、GPIFの内規で調査対象が理事長の場合は監査委員が、理事の場合はコンプライアンス・オフィサーが調査することになっていると主張。また、調査を委嘱した法律事務所から、調査の過程で違法性を示す事実が確認されれば第三者委へ移行するよう助言を受けたが、違法性が確認されなかったので第三者委は立ち上げなかったといいます。
最高投資顧問による癒着が疑われる巨額の国債取引独占という問題の重大性を鑑みず、形だけの内部調査でお茶を濁そうとするGPIFとそれを容認する厚労省の姿勢が、国民の不信に拍車をかけています。(おわり)
(この連載は佐久間亮が担当しました)
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| GPIFの資料、厚労省からの聞き取りなどをもとに作成 | |








