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2024年12月26日(木)

統治崩壊 GPIFは大丈夫か(上)

最高投資責任者の暴走

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(写真)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の事務所が入る虎ノ門ヒルズ森タワー=東京都港区

 東京・霞ケ関にほど近い虎ノ門ヒルズ森タワーに、国民が納めた年金保険料を金融市場で運用する公的年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が入居しています。市場のクジラと呼ばれる250兆円超の運用資産に対し職員数は167人。執行部は理事長と2人の理事のみです。

 昨年12月5日、GPIFの国債取引をめぐり理事の1人、植田栄治最高投資責任者を直撃する内部通報がGPIFの窓口に届きます。GPIFから委嘱された法律事務所が調査を進めると、衝撃的な事実が次々と明らかになりました。

 植田氏は同年7月以降、GPIFの内規で定められた手続きを経ずに特定の2証券会社に国債取引を独占させ、そのうち1社の役員には直接電話をかけ、将来の投資行動に関する情報まで教えていました。同役員と植田氏は、植田氏がゴールドマン・サックス証券時代に築いた「特別な人的関係」にありました。

 しかも、植田氏はこれらの事実を、資産運用方法を審議する投資委員会にも、執行部を監視・監督する経営委員会や監査委員会にも伝えず、それどころか同じフロアで日々顔を合わせている宮園雅敬理事長にも伝えていませんでした。国民の巨額の資産を預かるGPIFの深刻な統治不全が露呈したのです。

 GPIFの統治崩壊は内部通報後さらに加速します。植田氏ら執行部は、経営委員会や監査委員会、所管する厚生労働省に秘密にしたまま、内部通報後も24年4月まで国債取引を2社に独占させ続けていたのです。

 法律事務所の調査では当然、植田氏らの不正と癒着の有無が大きな焦点となっていました。植田氏らは、自らに重大な疑惑がかけられているさなかに、監督機関に隠したまま問題の取引を続けるという背信行為を重ねていたことになります。

2社に巨額の利益の機会

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(写真)経営委員会の3月26日の議事概要。質疑のなかで2証券会社による国債取引独占が続いていたことが明らかになりました

 疑惑の調査中も2社の国債取引独占を継続していた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の執行部を、厚労省の担当者は次のようにかばいます。

 「『特別な人的関係』の問題は内部通報の段階では必ずしも明らかではなかった」「(監督機関への報告は)選択肢としてあったと思うが、すべきだったとまで言えるのか」「(取引継続は)最良執行の観点ではあり得る話だったと思う」

 最良執行のためなら何をしても許されるという理屈は通りません。植田栄治最高投資責任者による不透明な国債取引について、法律事務所の調査結果が経営委員会に報告された3月25日。宮園雅敬理事長はこう述べています。

 「最良執行のためとはいえ、理由を示すことなくマニュアルの原則によらない執行が横行するようでは、いかに数字の実績が良くても、それを帳消しにする国民の不信を招くことになりかねない」

 宮園氏が認めた通り、問題の核心はマニュアルの原則を逸脱した植田氏の執行です。

「引き合い」なし

 GPIFは、金融機関の過去の実績などに基づき、国債の取引企業を17社に限定しています。そのうえで、市場から国債を購入する際は17社の内の複数社から「引き合い」(見積もり)を取り、最も良い条件を提示した会社と契約を結ぶことになっています。

 契約を結んだ会社は、市場から国債を調達しそれをGPIFに売却します。そのときの売買の差額が、会社の利益または損失になる仕組みです。

 ところが植田氏は23年7月以降、最高投資責任者の裁量を利用して、引き合いなしで国債取引を特定の2証券会社に独占させ、そのうち1社の役員には電話で投資情報まで伝えていました。

 GPIFは2社の社名や取引額を明らかにしていません。本紙がGPIFの公表資料をもとに試算したところ、23年7月~24年3月末のGPIFの国内債券購入額はおよそ10兆円に上ります。国内債券には国内企業や自治体が発行する債券も含まれますが、中心は国が発行する国債です。数兆円規模の巨額の国債取引が2社に集中したことは疑いありません。巨額の利益を得る機会が植田氏によって2社に与えられたといえます。

国民の信頼軽視

 法律事務所の調査では、不正や癒着の証拠は発見されなかったものの、植田氏への疑惑が取り除かれたわけではありません。宮園氏も「違法行為は認められなかったという調査結果であったが、いかなる裁量が行われたか、その理由やプロセスが明示されなければ国民の不信を招きかねない」と述べています(3月25日の経営委員会)。

 しかし、GPIF執行部のその後の行動からは、国民の信頼を回復しようという姿勢は見えません。法律事務所の調査報告書を非公開とし、調査結果を説明する記者会見も開きません。

 それどころか、調査結果が報告された翌日には、植田氏を理事として再任するよう経営委員会に提案。10人の委員のうち反対2人、棄権3人(反対に算入)で可否同数となり、委員長判断でかろうじて再任されると、いまだに最高投資責任者に置き続けています。経営委員の任命をめぐり過去に反対や棄権が出たことはありません。

 経営委員の一人は、植田氏に制裁処分を科さないという執行部の判断を「今後とも同様の行為が反復される恐れは大きい」と厳しく批判。再任に強い異議を申し立てました。

 「再任に賛成することは、われわれが負っている説明責任に照らしても、到底できない」

 (つづく)

 (2回連載です)


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