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2024年12月22日(日)

きょうの潮流

 東京・六本木の森美術館に向かう途中の丘に巨大な蜘蛛(くも)の彫刻が立っています。誰のどんな作品かも知らずにいたところ、その作者の個展が森美術館で開催中というので出かけました▼ルイーズ・ブルジョア(1911~2010)。作品群が女性解放運動の象徴と目された女性美術家です。前述の彫刻のタイトルは「ママン」。体内から出した糸で巣を編み、腹に抱えた卵をくるむ蜘蛛に母を重ねました▼パリでタペストリーの修復工房を営む家に生まれ、支配的で女性蔑視の父と、夫の不貞に苦しむ病弱な母の間で心を引き裂かれた少女時代。美術学校で学び、26歳でアメリカ人の美術史家と結婚し渡米。3人の息子を産み、妻と母の役割をこなしながら創作を続けますが、自由を奪われる焦燥と家族への罪悪感にさいなまれます▼下半身をあらわにした女が家と合体した連作絵画「ファム・メゾン」。腕のないピンク色の布製人形の両胸から、母乳を模した5本の白い糸が垂れる「良い母」。家に縛られ、母性神話に責められる女性の葛藤が伝わってきます▼圧巻は「父の破壊」と題した作品。洞窟のような空間に置かれた長台の上に肉片や骨片を思わせるオブジェが散乱し、それらは夕食時に延々と自慢話をする父を解体したものだといいます▼痛みを直視し表現することで生き延びた美術家には「地獄から戻ってきた。言っとくけど、それは素晴らしかった」と刺繍(ししゅう)した作品も。壊されても何度でも巣を張る蜘蛛は自身の姿でもあったのでしょう。


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