2024年12月14日(土)
2024とくほう・特報
カジノ用地工事で“密約”
公共契約の原則ないがしろ
会計検査院元局長 有川博さんに聞く
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大阪市が788億円を上限として公費で負担するカジノリゾート(IR)用地の土地改良工事―。この巨額公費投入をめぐって、工事費を増大させる府・市とカジノ業者の“密約”が明らかになりました。公共工事の契約に詳しい会計検査院元局長の有川博さん(一般財団法人公会計研究協会専務理事)に問題点を聞きました。(本田祐典)
契約変更で増額の恐れも
―大阪市はカジノリゾート用地の土地改良事業を、土地の借り手であるカジノ業者にやらせています。
市の費用負担で市有地を改良工事するのだから、これはまさしく公共工事として取り扱うべきです。しかし、この改良工事は、公共工事としての発注者、受注者ともにきわめて不適格です。
カジノ業者は、市が費用を負担する土地改良で恩恵を受ける受益者です。公共工事の受益者にその工事の発注業務をゆだねることは考えられません。
また、発注者と利害関係があるゼネコン3社は、まっさきに受注者から除外すべきです。ところが、カジノ業者に出資するゼネコン3社が特命随意契約(競争入札せず業者を指定して契約する方式)の形で工事を受注しており、工事費が増大するほど受発注者双方が利益を得る構図になっています。
―工事に対する公費負担について、“市が公共工事として発注する場合の予定価格”と“カジノ業者が行った工事の実費”を比べて安い方をカジノ業者に支払うとしています。競争入札で工事業者を選べば、予定価格よりも安くなるのではないでしょうか。
競争入札すれば、予定価格よりも低い額で落札されることが予想されます。土木工事は他の工事に比べて希望業者が多く、落札率は80%台後半から90%台となるのが一般的です。予定価格の100%付近で落札された場合、談合の疑いも出てきます。
もっと大きな問題は、あとから予定価格を変更し増額できる、としていることです。
予定価格と実費を比べて少ない方の額を支払うなら、本来は予定価格が費用増大を抑制する“最後のとりで”となるはずです。しかし、予定価格の変更を認めているので、これをしてしまえば歯止めになりません。
国などの公共工事でも、合理的理由がなく契約変更し、結果的に予定価格より大幅に増額した契約額とする事例が指摘されています。カジノリゾート用地の改良工事でも同じことが起こる恐れがあります。
また、そもそも予定価格の根拠を市民は確認できず、正しい価格が設定されているか検証できません。
―本来、工事業者の選定や契約はどうあるべきですか。
国や地方公共団体などによる公共工事の契約では、「公正性」「透明性」「経済性」の原則を守らなければなりません。とくに、公正性と透明性が経済性以上に求められるのが、民間契約と違うところです。
今回の事例では、カジノ業者が工事を発注し、その関連会社が受注するという“入り口”からすでに「公正性」と「透明性」を欠いています。
工事業者の選定で競争入札を行わず、ほかの業者が参入する機会を奪っていることも公正・公平とはいえません。
「経済性」という点では、先に述べた問題があります。
―大阪市は、土地改良工事を公共工事とせず、「公共工事に準ずるもの」としています。
公共工事契約のルールから逃れるために、民間による発注の形をとったのでしょう。
結果をみれば、公有財産が適切に管理されていないことは明らかです。これが国の事業なら、会計検査院が是正を求めることになるでしょう。
国の事業ではない今回の工事では、地方自治法にもとづく監査請求や住民訴訟で、公共工事契約の原則をないがしろにしていることが問われることになるでしょう。
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大阪市の優遇と住民訴訟
大阪市によるカジノ業者への格安での市有地貸与や土地改良費の負担をめぐっては、現在までに3件の住民訴訟が起こされています。12月中旬にも、松井一郎前市長らに格安貸与の損害賠償を求める新たな提訴が予定されています。(図)
これらのカジノ業者優遇策は、同じ夢洲(ゆめしま)で行う大阪・関西万博会場の跡地開発など、ほかの市有地処分に波及する問題です。同様の優遇策を土地の買い手や借り手に求められ、応じざるをえなくなる恐れがあります。
カジノリゾート土地改良費の公費負担 カジノ事業者からの要求を受け入れた松井一郎・大阪市長(当時)が2021年、カジノリゾートの土地改良工事を公費で負担する方針を決め、同年12月の府・市副首都推進本部会議で約790億円の負担を決めました。市議会は22年3月、維新、公明が賛成して788億円の債務負担行為を可決しました。
本紙が今回入手した公文書によると府・市は21年5月、土地改良工事のうち地中障害物撤去と土壌汚染対策の公費負担をカジノ業者に約束していました。公費負担の方針を市民や議会に示した21年12月より7カ月も早い“密約”でした。
文書名 | 液状化対策費の大阪市負担にかかる考え方 | 土壌汚染対策費の大阪市負担にかかる考え方 | 地中障害物撤去費の大阪市負担にかかる考え方 |
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作成時期 | 2023年9月 | 21年5月、同7月修正、23年9月修正 | |
作成時の情報公開 | 「守秘義務対象資料」に指定し非公開 | ||
市負担額の認定方法 | 「(市が発注する場合の)予定価格と設置運営事業者が(中略)対策に実際に要した費用の低い方の金額」 | ||
予定価格の変更方法 | 「(カジノ業者が)変更認定依頼書を提出し、大阪市と協議の上、その確認を得る」 「(市が)予定価格の算出等の検討を再度行い(中略)負担額の概算予定額の変更認定」 |