しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2024年12月2日(月)

2024とくほう・特報

兵庫知事選で何が起きた SNSと選挙を考える

写真

(写真)斎藤元彦氏の演説に集まった人たち=11月4日、兵庫県西宮市

 SNSや動画サイトが選挙に大きな影響を与えています。兵庫県知事選(11月17日投開票)に続き、名古屋市長選(24日投開票)でも同様の傾向が現れました。東京都知事選や総選挙に続く事態です。とりわけパワハラや県政私物化などを告発され、全会一致の県議会不信任決議で失職した斎藤元彦知事が再選される異例の展開となった兵庫県知事選で何が起きたのか振り返ってみます。(内藤真己子)

息子が「動画見ろ」と

 斎藤氏に投票した人に聞きました。

 尼崎市で飲食店を営む男性(69)は、こう語ります。「投票に行ったことのない息子(30代)が突然、投票に行くと言い出し驚いた。『斎藤さんはパワハラなんかしてないのに既得権益を持つ守旧派に陥れられた。助けないかん』とすごい勢いだった」「N国党の立花孝志氏のユーチューブ動画を見ろというので見たら、切り抜きショート動画が次々流れてきた。違っていたら訴えてくれとまで言っており、筋が通っていると思った」

 3歳と8歳の子を持つ神戸市の保育士の女性(34)は「忙しくてテレビを見ることが少なく、パワハラのことも知らなかった」と言います。「選挙になってユーチューブを見た夫から話を聞き立花さんの動画や演説を見て、テレビはうそをついていたのだとはっきりした。いままでは政治や選挙に全く興味をもっておらず、選挙は頼まれる人に入れていた」

 NHK出口調査では、投票でもっとも参考にした情報は「SNSや動画サイト」が30%で最多。新聞、テレビは各24%でした。「SNSや動画サイト」と答えた人の70%以上は斎藤氏に投票していました。10代・20代のおよそ60%。30代の50%台後半が斎藤氏に投票したとしています。投票率は55・65%で3年前より14・55ポイント上がりました。

N国・立花氏による斎藤氏「応援」の動画にはフェイク情報が

斎藤氏公式の12倍超

 動画で圧倒的な再生回数を記録したのが当選を目指さず「斎藤氏を応援する」と公言して立候補した立花氏の動画です。ネットコミュニケーション研究所の分析によれば、約63万人の登録者がいる同氏のユーチューブチャンネルに100本以上投稿され、1500万回近く再生されました。斎藤氏の公式チャンネルの12倍超でした。さらに立花氏に同調する著名人の動画も注目を集めました。ゲーム配信やガーデニングを主とするチャンネルが、突如、斎藤氏関連の動画を投稿し始めるケースも確認できたとしています。

写真

 こうした動きについてネットの仕組みに詳しい日本ファクトチェックセンター編集長の古田大輔さんは次のように指摘します。

 「プラットフォームと呼ばれるユーチューブなどの画面には利用者の関心に基づいた動画が次々表示されます。視聴履歴やフォローしているアカウントなどに基づく計算の結果です。大量の利用者を集めて広告を配信することで莫大(ばくだい)な広告収入をもたらすアテンションエコノミーと呼ばれる仕組みが働いています」

 利用者が好みそうな情報が自動的に選ばれ、それ以外は届きにくくなる状況を「フィルターバブル」と呼びます。また、「利用者は自分好みの情報をフォローし、同じような意見を持った人同士でつながりがちです。『反響室』の中でお互いの意見のこだまを聞くような状態になり、最初に判断したことを信じやすい確証バイアスも働いて偏りを強めていく効果があります」。

 動画で立花氏は「斎藤氏はパワハラなどしておらず既得権益を守ろうとする県議会にはめられた」などと繰り返しフェイク情報を流したことを本紙では確認しています。

好みの情報・同意見でつながりがちなネット。偏り強める効果

メディアが検証せず

 実際はどうか。斎藤氏は東大卒の元総務官僚で、前回知事選では自民と維新が相乗りしました。高速道路網建設など大企業の利益を優先し、県立高校・病院の統廃合を進める姿勢は前県政と変わりません。

 元西播磨県民局長が3月、斎藤知事のパワハラなどを訴えた告発文書を報道機関などに送付すると斎藤氏は“犯人捜し”を指示し、会見で「うそ八百」と指弾。「調査」で元局長を停職3カ月の懲戒処分にしました。告発者捜しや、通報者の不利益扱いを禁じ、保護を義務付けた公益通報者保護法に反しています。そのもと県議会は百条委員会を設置。元局長は7月の証言の直前、「一死を持って抗議する」とのメッセージを残して自死。告発者が命を失う事態となりました。

 斉藤氏のパワハラは百条委実施の全職員アンケートで、約4割が見聞きしたという回答でした。

 マスメディアはフェイク情報がネットにあふれても選挙期間中になるとこうした事実経過を報道しませんでした。古田さんは「選挙になって有権者が情報を取りに行こうとしたときに、テレビや新聞は個別候補者のことを報じない。人々が知りたい情報がない『情報の空白』をSNSや動画が埋めていた。それ自体は悪くないが、誰でも発信できて管理が難しいネット上には誤った情報もある。メディアはその検証をほとんどせずに放置していた」と語ります。

 テレビ各局は不信任決議の直後に斎藤氏を生出演させ、一人で朝宣伝する様子も無批判に報じていました。日本共産党兵庫県委員会に選挙後、高齢男性から「立花氏の情報を信じ拡散し始めた友人を止めたい」と電話がありました。勤務員はネット上の誤情報を検証していた日本ファクトチェックセンターのサイトや、議事録が載っている県議会百条委員会のサイトを紹介しました。男性は取材に「良く分かった」と答えました。

こども医療無償などに冷たい斎藤県政。若者の味方ではない

質の高い情報増やせ

 古田さんは「情報が一方通行でなく双方向にやり取りできるのは紙媒体やテレビではなくネット。そちらの利用が増えるのも当然で質の高い情報が増えるように関係者が頑張るしかない」と語ります。

写真

 おおさわ芳清候補を擁立し県知事選をたたかった憲法が輝く兵庫県政をつくる会代表幹事の石川康宏神戸女学院大学名誉教授は次のように語っています。

 「斎藤県政はこどもの医療費無償化にも給食費の無償化にも冷たく、若者の味方などではありません。県立大学の学費無償化も全学生の1・7%(24年度)だけです。真の争点は、前県政と変わらない大型開発優先の古い自民党政治の転換か否かでしたが、政策の違いを争点にしきれなかったし、メディアも取り上げませんでした」

 一方で投票率が大幅に上がったことについて石川さんは、「市民が主体的に選挙にかかわることはもちろん大切なことで、それは明らかに前進点。しかし立花氏は、過去に有権者を犬や猫にたとえ『バカに(票を)入れてもらう方法を考えるのが本当に賢い人』などと市民を愚弄(ぐろう)しています。そうした人物に乗せられてしまったことへの気づきは必要で、それを促す取り組みを急がなければならない」と指摘します。

グラフ


pageup