2024年9月28日(土)
主張
袴田さん無罪判決
再審法改正で重すぎる扉開け
「自由の扉は開けました」。58年前に起きた袴田事件の再審で静岡地裁の国井恒志裁判長は、死刑とされた袴田巌さん(88)を無罪とし、裁判が長引いたことを謝罪しました。(26日)
判決は、静岡県のみそ製造会社専務一家4人の殺害事件で、有罪の決め手となった証拠は捜査機関による捏造(ねつぞう)だと断じ、冤罪(えんざい)だと認めました。無実を訴えた巌さん、支え続けた姉の袴田ひで子さん(91)や支援者の闘いが実りました。
■公権力の犯罪行為
これは公権力による重大な犯罪行為、最悪の人権侵害です。袴田さんの身体拘束は48年間、死刑囚として過ごしたのは34年に及びます。死の恐怖のもと、長期の拘束で拘禁症状を呈してもまともな医療措置もされませんでした。検察は断じて控訴すべきではありません。審理を引き延ばすのは許されません。
袴田さんの自白は、連日12時間にも及ぶ脅しを伴う取り調べによるもので、袴田さんは裁判で否認。殺害動機など重要な内容が変転し、当初から自白のほとんどが証拠から排除されていました。今回、判決は「肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取調べ」による「実質的…ねつ造」と断じました。
冤罪を生む自白偏重の違法な捜査は許されず、繰り返されてはなりません。警察、検察、裁判所は、なぜ冤罪が生じ無罪判決まで半世紀近くかかったのか全面的に検証すべきです。袴田事件を含め、捜査のあり方や証拠の扱いについて検証する公的な第三者委員会の設置が必要です。
■検察の抗告禁止を
袴田さんの裁判を長引かせたのは、メンツにこだわるかのような検察の姿勢です。第2次再審請求審で静岡地裁は14年、再審開始を決定。捜査機関による証拠捏造の疑いを指摘し、拘置を続けることは「耐え難いほど正義に反する」として袴田さんを釈放しました。
しかし検察はこれを不服として抗告。東京高裁、最高裁を経て高裁に差し戻され、23年に東京高裁が14年の静岡地裁同様に証拠捏造の可能性を指摘し、やっと再審開始が確定しました。
再審は冤罪救済の最後の砦(とりで)です。しかしその扉は重く、検察の抗告で開始が妨げられています。
背景には、刑事訴訟法に再審手続きの規定がほとんどないことがあります。
まず、検察が証拠開示に応じるルールがありません。開示命令するかは担当裁判官に左右されるうえ、検察は拒否できます。捜査当局が無罪を示す証拠を隠す例が起きています。法改正で再審での証拠の全面開示を義務づけるべきです。
再審開始に対する検察の抗告が冤罪被害者の救済を遅らせています。検察は再審公判で事実を争えばよいのであり検察の抗告は禁止すべきです。
冤罪は国家による最大の人権侵害です。再審開始に時間がかかりすぎれば冤罪を晴らせずに人生を終える人がでます。再審法(刑事訴訟法)の改正は急務です。
死刑確定後に再審で無罪となったのは今回で5件目です。誤った捜査と司法判断で、国家によって無実の人の命が奪われることがあってはなりません。死刑制度の廃止に向けた国民的議論が求められています。