2024年9月24日(火)
主張
被爆者認定訴訟
国は控訴せず被爆者と認めよ
「被爆者と『同等』とするなら、被爆者と認めればいい」。長崎の原爆で「黒い雨」や灰を浴びながら、国が定めた被爆区域外にいたために被爆者と認定されず、認定を求めて裁判を闘ってきた「被爆体験者」は憤ります。
先の長崎地裁判決(9日)は、被爆指定区域外でも「黒い雨」で被爆した人がいたことを認め、原告44人のうち15人を被爆者と認めました。原告や長崎県・市は国に控訴しないよう求めていました。
岸田文雄首相は被爆体験者との面会で「合理的に解決できるよう指示した」と語り、武見敬三厚労相は判決を受けて「適切に対応する」とのべていました。
■あくまで認めない
しかし、岸田首相は被災者の思いを無視し21日、控訴の意向を表明しました。
これまでも国は、一貫して被爆者の認定を狭く限定する姿勢をとってきましたが、今回、「黒い雨」を浴びていても、あくまで被爆者と認めない姿勢を露骨に示しました。
一方で、岸田首相は、裁判の原告かどうかにかかわらずすべての被爆体験者に「被爆者と同等の医療費助成を行う」とのべました。
これまで被爆体験者については、原爆の放射能による被害ではなく、被爆体験によるトラウマで精神疾患を患っているとして「支援事業」で限定的な医療費助成がされてきました。毎年、精神科の診断が必要でしたが、その要件を外し、ほぼすべての病気で窓口負担をなくすと言います。
「被爆者と同等」の医療費を助成するということは、原爆で被爆者と同じ影響を受けたと認めたことにほかなりません。ならば、直ちに被爆者と認めるべきです。政府の今回の方針は、救済を求める原爆被災者の声と運動を無視できなかったものであると同時に、これまでの支援事業の矛盾と破綻を示すものです。
もともと長崎の被爆区域は、当時の長崎市全域を中心に指定されました。そのため、市外の場合は、爆心地から同じ距離にいても被爆者と認められない不合理なもので、被災者は是正を求めてきました。
国は「原爆被爆地域」そのものは広げず、特例区域を設けたり、区域外の人を「被爆体験者」とするなど線引きしてきました。被爆者としての認定を拒み、被爆者援護法を適用しない代わりに、法律によらない「支援事業」で“ごまかし”と言えるような対応をしてきました。今回の岸田首相の表明もこの延長です。
2021年に確定した広島高裁判決は、被爆者とは原爆による健康被害が生じることを「否定できない事情の下に」あった人だとします。国はこれに従い、すみやかに被爆体験者を被爆者と認め、被爆者援護法を適用すべきです。原爆被災者は高齢化しています。国は長崎地裁判決に控訴すべきではありません。
■核の被害を矮小化
国の態度の根底には国家補償を拒み、核兵器の被害を矮小(わいしょう)化したいという姿勢があります。唯一の戦争被爆国でありながら核抑止力を唱え米国の「核の傘」を頼むうえで核の惨禍を訴えるのは不都合だからです。これを変えるためには核兵器廃絶を求める世論とともに政治の変革が必要です。