2024年9月14日(土)
主張
自民党総裁選
裏金解明に背向け「改革」とは
岸田文雄首相の後任を決める自民党総裁選が告示され、9人が立候補しました。しかし、岸田首相が退陣する最大の引き金となった裏金事件の実態解明を進んで行うという候補者が1人もいないというのは極めて異常です。
■改憲は異口同音に
今回の総裁選で岸田首相が再選を断念したのは、自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件と、その真相究明に後ろ向きの姿勢が国民の大きな怒りを買い、内閣支持率が急落したためです。
裏金事件発覚の端緒を切り開いたのは、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞を受賞した本紙日曜版のスクープでした。JCJは選考理由で、裏金事件は「大政治犯罪」であり、スケールの点では、1975年の田中金脈や88年のリクルート事件を超えるものだと指摘しています。
今回の総裁選で、各候補は「政治改革」を唱えながら、事件の真相究明にはそろって背を向けています。新総裁による事件の再調査について「ちゃぶ台返しするのは独裁だ」(高市早苗経済安全保障相)という声まで上がっています。事件が「犯罪」という認識を誰一人持っていないことを示すものです。
同時に、裏金事件に関与した安倍派などに所属していた議員の支持を得ようという思惑が各候補にあるからです。事件に関係した裏金議員の推薦を受けている候補者は実に9人中5人に上ります。
裏金事件の舞台となった政治資金パーティーは、企業・団体献金の抜け道となってきました。企業・団体献金には賄賂という本質があります。「政治改革」をうたうのであれば、その禁止は避けて通れない課題です。しかし、これに言及する候補者もいません。
一方で各候補が異口同音に主張するのが、日米軍事同盟の強化とともに、自衛隊の明記など憲法改定の早期実現です。「総理在任中の発議を実現する」(石破茂元幹事長)、「戦後初めての国民投票を実施したい」(小泉進次郎元環境相)と述べるなど前のめりです。
小泉氏は災害救援に取り組む自衛隊を憲法に書くだけと思わせるような主張をしていますが、今月、党憲法改正実現本部がまとめた自衛隊明記などに関する「論点整理」の狙いは違います。それは、海外での米国の戦争に日本が加わる集団的自衛権の行使を全面的に可能にしようとするものです。石破氏の言う「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」も、そうした改憲なしには不可能です。
■“首切り自由”も
総裁選では、「労働市場改革」が大きな争点の一つになってきました。小泉氏は正規・非正規労働者の格差是正などを口実に「解雇規制の見直し」を表明しています。河野太郎デジタル相も「解雇紛争の金銭解決」を主張しています。
しかし、これまで非正規労働者を増やしてきたのは、大企業の利益を最優先する自民党政治です。「労働市場改革」は、財界・大企業が望む“首切り自由化”につながるものです。
どの候補が総裁に選ばれても、財界奉仕・米国言いなりの自民党政治をもとから変えることができないことは明らかです。