2024年8月26日(月)
主張
海水温上昇の影響
魚種転換に応じた経営支援を
不安を抱えつつ秋のサンマ漁が始まりました。スルメイカやサケも不漁が続いています。暖流系のフグやタチウオは全国的には減少していますが太平洋北部で増加し、北海道ではサケに代わりこれまで獲(と)れなかったブリが増えています。
■地球温暖化が要因
いま、漁業・水産業は燃油高騰に加え、漁業資源の減少に苦しんでいます。加工や販売、流通業など地域経済への影響も深刻です。
要因の一つが海面水温の上昇です。気象庁によれば、日本近海の平均海面水温は100年前と比べ1・28度上昇、世界平均の0・61度の倍の上昇率です。
北上する暖流・黒潮の勢いが増し、海水温が極度に高い状態が5日以上続く「海洋熱波」が何度も発生。福島常磐沖に滞留する温暖塊が北に移動し、寒流・親潮の南下を遮り弱体化させていると指摘されます。
国の水産研究・教育機構は、▽潮流の変化や海面水温上昇でサンマの生息域が沖合化し回遊経路も北海道沿岸から公海に移動▽サケ稚魚の生存率が悪化しているうえ親潮の勢いが弱く回帰率が減少▽スルメイカは東シナ海の水温上昇で産卵環境が悪化し餌となるプランクトンも減少―と公表しています。公海や日本海では外国漁船の先獲りも不漁の要因です。
2023年3月採択のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書は、人間の温室効果ガス排出が地球温暖化を起こしたことは「疑う余地がない」「不可逆的な損失をもたらしている」とし、15年のパリ協定は産業革命以前に比べて世界の平均気温上昇を2度以内に抑えるとします。それでもインド・太平洋域の漁獲可能量は20%減少するとの警告もあります。
温暖化に対応した漁業・水産業の支援策が急務です。北海道ではスルメイカからブリへの魚種転換の試みが進んでいます。新たな漁法、機材、漁具への支援や水産加工業者への機械や技術支援が必要です。魚種転換に対応できるまでの経営継続支援が欠かせません。
漁法を変えることで漁獲希望者が増えれば漁場での紛争になりかねないため、都道府県が漁業調整の役割を果たすことも必要です。
海水温の上昇で貝類やノリ、コンブの養殖業にも影響が出ています。政府は、養殖技術、高温耐性の育種、胞子の保存への支援に力を入れるべきです。
また、河川や海岸線の開発による水質悪化は藻場・干潟の減少を招き、魚介類の生息環境を破壊します。海洋環境の変化や開発が魚介類・藻類の生息域や分布域に及ぼす影響を漁業者の協力を得ながら調査する必要があります。日本周辺国との連携も必要です。
■沿岸漁業に手厚く
いまクロマグロが増えています。中西部太平洋クロマグロ類委員会(WCPFC)が15年に規制を導入した際、水産庁が沿岸漁業者に相談なく大中巻き網を優先する漁獲枠を決めたため生活できない漁業者が生まれました。
定置網に入ったクロマグロを放出せざるを得ない実態もあります。今年のWCPFC北小委員会は漁獲枠の増枠で合意し、この秋から新たな漁獲枠が議論されます。沿岸漁業者に手厚く配分することが必要です。