2024年8月15日(木)
きょうの潮流
流れるような線や淋(さび)しい模様。私はそれらの作品を通じて、その民族が何を求め何を訴えているかを、親しく聞くことができた。私は朝鮮の芸術を、もっと人びとに近づけねばならぬ任務を感じている▼100年前、朝鮮王宮の景福宮内で開館した朝鮮民族美術館。その設立の訴えで柳宗悦は朝鮮の芸術と人びとへの敬愛をこめて「心の友」と呼びました。芸術はいつも国境をこえ、心の差別をこえると▼いま東京・駒場の日本民藝館では、節目を記念して朝鮮工芸の展覧会を開いています。軍国日本がアジアへの侵略と植民地政策を強めるなか、自由に発言できない朝鮮の人たちに代わり、柳は力による支配と同化教育を厳しく批判しました▼弾圧の時代に軍国主義の弊害を公然と主張するとは、どれほどの勇気だったか。のちに柳は「敗戦によっていささかもみずからの思想や行動の方向を転じる必要のなかった、数少ない人物のひとりであった」と称賛されました(『評伝 柳宗悦』)▼アジア諸国民のおびただしい命を奪い、生活や文化を破壊した日本の侵略戦争。終戦はその惨禍からの解放でもありました。戦後の原点である憲法9条の改憲、大軍拡にふみだす自民党政権によって、アジアの緊張が高まるなか、加害の歴史こそ忘れてはならない教訓です▼柳は戦前、未来の日本を三つの理由から信じるとのべています。自由への思慕、若い日本人に朝鮮を理解しようとする思想が生まれていること、そして最後に勝利するのは正義であると。