2024年8月6日(火)
原水爆禁止世界大会 フォーラム2
“非核と平和を一体”に、草の根からの運動を広げよう
志位議長の発言
原水爆禁止世界大会フォーラム2(5日)での、日本共産党の志位和夫議長の冒頭発言(全文)は次の通りです。
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このフォーラムのテーマは、「非核平和のアジアのために――日本と東アジアの運動との交流」となっています。私は、原水爆禁止世界大会の企画として、非核の世界をつくることと、平和なアジアをつくることを、一体に考えることをテーマにフォーラムがもたれたことを歓迎し、討論に参加したいと思います。
世界ではいま、核兵器が現実に使用される危険をはらんだ状況が生まれています。ウクライナを侵略するロシアが公然と核兵器による脅迫を繰り返していること、ガザ攻撃を続けるイスラエルが核兵器をちらつかせていることは、許すことができません。他方、アメリカが核先制使用の政策をとり、同盟国と一体に「核抑止」の拡大・強化を進めていることも重大です。
それでは東アジアの情勢はどうでしょうか。この地域では、経済的、人的、文化的交流が目覚ましく発展し、相互依存が強まっています。その一方で、大国間の対抗が強まるもとで、さまざまな紛争・緊張・対立が存在していることも、また事実です。
こうしたもとで、非核の世界、平和なアジアをつくるために、いま日本は何をなすべきか。私は、この場で、二つの点を日本政府に求めたいと思います。
「核抑止」論から抜け出し、核兵器禁止条約に参加を
第一は、「核抑止」論から抜け出し、核兵器禁止条約に参加することです。
世界で核使用の危険が高まるもとで日本政府は、いま何をやっているでしょうか。
日米両政府は、7月28日、「拡大抑止」に関する初の閣僚会合を開きました。日米の共同文書では、この会議開催の目的を「実質的な戦略レベルの議論を深める」ためとしています。「拡大抑止」とは、米国の核兵器使用の脅迫によって、相手国を抑え込むということです。そのために「実質的な戦略レベルの議論を深める」という。いったい何を「深める」のでしょうか。内容は未公表ですが、米国がどのような場合に核で報復するか、日本への核持ち込みをどうするのかなどの「戦略」を具体化していくことになる危険があります。
このような合意を、広島・長崎の被爆79周年を前に行うとは何事か。地元の中国新聞は社説で、「被爆地の思い踏みにじった」と強く批判しましたが、私は、被爆地を愚弄(ぐろう)する、こうした恥ずべき行動に、みなさんとともに強く抗議したいと思います。(拍手)
そもそも「核抑止」論とは何か。それはいざという時には核兵器を使用することを前提にした議論です。いざという時に使わないとなれば「抑止」にはなりません。言葉を替えて言えば、いざという時には広島・長崎のような非人道的惨禍を引き起こすこともためらわないという議論です。
日本政府は、「核兵器の非人道性」については、これを批判するという立場を繰り返しています。「核兵器の非人道性」を言いながら、「核抑止」を強化するというのは、根本的に矛盾しているのではないでしょうか。
林芳正官房長官は、7月29日の会見で「核抑止に頼る姿勢は核なき世界を掲げる岸田政権にとって矛盾しないのか」と問われて、まったく答えられませんでした。「決して矛盾することではない」と強弁するのみでした。
私は、広島・長崎の被爆79周年にあたって日本政府に強く求めます。日本政府は、「核兵器のない世界」「核兵器の非人道性」を主張するなら、「核抑止」論にしがみつくのは、いいかげんにやめるべきです。「核抑止」論の呪縛から抜け出して、核兵器禁止条約への参加を決断せよ。このことをみなさんとともに強く求めたいと思います。(拍手)
憲法9条を生かした平和外交で東アジアを戦争の心配ない地域に
日本がやるべき第二は、憲法9条を生かした平和外交で、東アジアを戦争の心配のない地域に変えるために本気で力をつくすことです。
日本共産党は、4月17日、「東アジア平和提言」を発表しました。私たちの「提言」は、三つの柱からなっています。第一は、ASEAN(東南アジア諸国連合)と協力して東アジア規模での平和の地域協力の枠組みを発展させることです。第二は、北東アジアの諸問題――日中関係、台湾問題、朝鮮半島問題、歴史問題などの外交的解決をはかり、東アジア平和共同体をめざすことです。第三は、ガザ危機とウクライナ侵略を国連憲章と国際法にもとづいて解決することです。
「核抑止」に対する立場の違いをこえて、対話と外交によって東アジアに平和をつくる
今日は、私たちの「東アジア平和提言」と、「核兵器のない世界」とのかかわりについて、お話しさせていただきたいと思います。
私たちはこの「提言」を、立場の違いを超えて広く共同が可能なものとなるよう心掛けました。軍事同盟に対する立場の違い、「抑止」に対する考え方の違い、さらに「核抑止」に対する立場の違いがあっても、現状はあまりに「対話と外交」が不足している、まずは「対話と外交」を強めていくべきではないかという方々とも胸襟を開いて話し合い、「対話と外交によって東アジアに平和をつくろう」――この一点で、知恵を集め、力を合わせようというのが、私たちの「東アジア平和提言」の立場であります。
たとえば、私たちの「提言」では、ASEANと協力して、「ASEANインド太平洋構想(AOIP)」の実現を共通の目標にすえ、東アジアサミット(EAS)を活用・発展させて、東アジアの平和構築をはかることを提唱しています。
核兵器という角度から東アジアを見てみましょう。そうしますと、ASEAN諸国は、1995年に東南アジア非核地帯条約をむすび、核保有国に議定書への署名を求めて働きかけを続けるなど、世界的にも「核兵器のない世界」への一大源泉となっています。
それでは、北東アジアに関連する国はどうでしょうか。東アジアサミット(EAS)は、ASEAN10カ国プラス8カ国で構成されています。このプラス8カ国のうち、米国、中国、ロシア、インドは核保有国です。日本、韓国、オーストラリアは、米国の「核の傘」のもとにある核兵器依存国です。ニュージーランドだけが核兵器禁止条約に参加しています。そうした国も含めて構成されている東アジアサミットを活用・発展させて、紛争の平和的解決を大原則にすえて、粘り強い対話を続けることで、戦争の心配のない東アジアをつくろうというのが、私たちの「提言」が呼びかけていることです。
「提言」のプロセスが進めば「核抑止」論の口実はなくなる
このプロセスが進んだらどうなるでしょうか。端的に言いますと、「核抑止」という議論を持ち出す口実がなくなります。「核抑止」論は、紛争・対立・緊張を口実にしてつくられます。ですから紛争・対立・緊張がなくなったら、「核抑止」論のよってたつ口実がなくなるではありませんか。戦争の心配のない平和な東アジアがつくられれば、このプロセスが進むならば、核兵器の出番はなくなるのであります。
私たちの「提言」では、日中両国関係の前向きの打開のための提案も行っています。この提案も「核抑止」論の克服を前提にしたものではありません。「互いに脅威とならない」という2008年の日中首脳合意など、両国関係の前向きの打開のための「共通の土台」を生かして、両国関係の前向きのブレークスルー(打開)をはかり、平和と友好を確かなものにしていこうという提案です。このプロセスが進んだらどうなるでしょうか。日中関係の平和と友好が確かなものになれば、少なくとも、日中両国関係では「核抑止」論の出番はなくなります。
私たちの「提言」では、この地域での非核化を直接提起している内容もあります。朝鮮半島問題の解決についての提案です。ここには非常に大きな困難がありますが、解決方法は外交しかありません。「提言」では、緊張のエスカレートを止めるために、米朝・南北・日朝など関係国間で対話ルートを開くためのあらゆる努力をはかることを訴えています。2018~19年の南北・米朝会談などの教訓を踏まえて、朝鮮半島の非核化と平和体制の構築を一体的、段階的に進めることを提案しています。
困難は大きなものがありますが、これが唯一の合理的な解決の道筋だと思います。そのことは、この間、一連の国での、北朝鮮問題に実際に携わってきた外交関係者との対話でも、確認されたことでありました。
「提言」のプロセスが進めば「核兵器のない世界」へ道が開かれる
私たちの「東アジア平和提言」そのものは、直接には「核兵器のない世界」を提唱したものではありませんが、「提言」のプロセスが進めば――戦争の心配のない平和な東アジアがつくられれば――、「核兵器のない世界」への道が開かれる、こういう関係にあると思います。
私たちの「提言」では、東アジアの平和構築のために、草の根からの運動を呼びかけています。これは何よりも核兵器禁止条約の教訓に学んだものです。被爆者を先頭とした世界の市民社会の頑張り、連帯なしにこの歴史的条約はつくられませんでした。この教訓に学んで、東アジアの平和構築の方途についても、草の根から対話と運動、そして各国の連帯を広げようではありませんか。
「核兵器のない世界」を求める運動と、東アジアの平和構築をめざす運動を一体に――“非核と平和を一体に”――、各国の草の根から広げることを、心から訴えたいと思います。(拍手)
絶対に核戦争を起こさせない―9条に込められた思い
最後に、“非核と平和を一体に”ということとかかわって、なぜ私たちの日本は憲法9条を持ったかについて述べたいと思います。
1945年6月に調印された国連憲章と、46年11月に公布された日本国憲法を比較してみたいと思います。「武力による威嚇又は武力の行使」が禁止されていることでは両者は一致しています。しかし国連憲章にはないもので、日本国憲法第9条に明記されているものがあります。それは9条第2項で一切の戦力の保持を禁止し、国の交戦権を禁止していることであります。つまり国連憲章と比べても、日本国憲法は前に向かっての飛躍があるのです。
この飛躍はどうして生まれたか。国連憲章がつくられた45年6月と、日本国憲法がつくられた46年11月との間に、人類はある重大な出来事を体験しました。広島、長崎に原爆が投下されたことです。二十数万人の無辜(むこ)の人々が命を奪われ、二つの美しい都市は一瞬にして廃虚と化し、言語を絶する犠牲をこうむりました。このようなこの世の地獄を、世界のどこでも二度と繰り返してはならないという強い思いが、憲法9条という宝を生み出した大きな歴史的な契機となりました。
つまり私たちの憲法9条には、戦争を二度と引き起こしてはならないという決意とともに、この地球上のどこでも核戦争を絶対に引き起こしてはならないという決意が込められています。
非核の世界をつくるたたかいと、平和なアジアをつくるたたかいは、憲法9条という点でも深く結びついています。“非核と平和を一体”のものとして、草の根から運動をすすめることを重ねて訴えて、私の発言としたいと思います。ありがとうございました。(拍手)