2024年7月29日(月)
きょうの潮流
〈五月雨をあつめて涼し最上川〉。山形に入った芭蕉がこの川を見たとき、最初に詠んだ句です。のちに川下りを体験したことで「涼し」を「早し」に変えたといわれています▼日本三大急流の一つに数えられる最上川を言い伝えるときによく用いられるエピソードです。芭蕉は「奥の細道」のなかで「水みなぎつて舟あやうし」とも。その水勢の激しさは、複雑な地形と相まってたびたび洪水被害をもたらしてきました▼東北の日本海側を襲った記録的な大雨。山形では最上川が氾濫し、各地で浸水被害がひろがっています。泥水にまみれた一面の宅地や農地。隣県の秋田とあわせ、これまでに複数の死亡者や行方不明者も出ています▼長く住んできた人も「こんなこと初めて」というほどの雨量。土砂崩れや断水が続く地区も。今後も大雨の予報があり、早めの避難など警戒が欠かせません。この暑さのなかの後片付けや復旧作業にも対策が必要です▼酷暑と豪雨がすっかり定着してしまった日本の夏。毎年のように水害にみまわれる地域もあります。その恐ろしさとともに水が引いた後の生活の再建がいかに大変か。これまで築いてきた営みが根こそぎ奪われ、途方に暮れる姿も▼国民の命と財産を守るためには、異常気象に見合う対策が求められているはずです。ふたことめには国を守ると主張する首相。ならば防災にこそ力を注ぐときではないか。それとも守るべきはちがうものだとでも…。芭蕉が今の最上川を見たら、どう詠むのだろう。