2024年7月26日(金)
「いま東アジアの『平和の準備』をどう進めるか」シンポ
「東アジア平和提言」を貫く基本的立場について
日本共産党 志位和夫議長の発言
日本共産党の志位和夫議長が24日、シンポジウム「いま東アジアの『平和の準備』をどう進めるか」で行った「東アジア平和提言」を貫く基本的立場についての発言は次のとおりです。
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みなさん、こんばんは。日本共産党の志位和夫です。参加されたみなさん、インターネット中継をご覧のみなさんに心からのあいさつを送ります。パネリストを引き受けてくださった清末愛砂さん、佐々木寛さん、コーディネーター兼パネリストを務めていただいている纐纈(こうけつ)厚さんに心からのお礼を申し上げます。
冒頭、ガザ危機について一言訴えます。イスラエルの大規模攻撃による死者は少なくとも3万9千人を超え、ジェノサイドを止めることは一刻の猶予も許されない世界の大問題となっています。私は、イスラエルに対して、大規模攻撃をただちに中止し、即時停戦に応じることを、参加者のみなさんとともに強く求めたいと思います。
日本共産党は、4月17日、「東アジア平和提言」を発表し、国内外で対話と共同のとりくみを開始してきました。私たちの「提言」は、三つの柱からなっています。第一は、ASEAN(東南アジア諸国連合)と協力して東アジア規模での平和の地域協力の枠組みを発展させることです。第二は、北東アジアの諸問題――日中関係、台湾問題、朝鮮半島問題、歴史問題などの外交的解決をはかり、東アジア平和共同体をめざすことです。第三は、ガザ危機とウクライナ侵略を国連憲章と国際法にもとづいて解決することです。
今日は、私たちの「提言」を貫く基本的立場について、4点ほど話したいと思います。討論のたたき台にしていただければと思います。
大軍拡路線に対し、憲法9条にもとづく平和的対案を示す
基本的立場の第一は、岸田政権の大軍拡の暴走に対して、憲法9条にもとづく平和的対案を示しているということです。
岸田政権の大軍拡路線は、二重の危険性をもつ動きとなっています。その根幹にすえられているのは敵基地攻撃能力保有と大軍拡、日米の指揮・統制機能の一体化、核抑止の強化など、「専守防衛」をかなぐりすてた日米軍事同盟の侵略的強化です。
同時に、岸田大軍拡路線が、米国が「統合抑止」の名で進めているユーラシア大陸の東と西での軍事同盟の大増強の一翼を担うグローバルな危険性をもっていることは、重大であります。それは、岸田首相の3年連続のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議への出席、「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」との発言、自衛隊とNATO加盟国などとの軍事的共同の拡大などにあらわれています。
この大軍拡路線をどうやって止めるか。もちろんその危険性を明らかにしていく努力が必要です。同時に、国民のみなさんが不安に感じているどんな問題に対しても、平和的・外交的解決の道があることを、説得力をもって示すことが、どうしても不可欠です。
「東アジア平和提言」では、そうした外交の可能性をとことん追求しました。外交と対話による平和は、空想的な理想論でしょうか。そんなことはありません。長期にわたって粘り強い対話を積み重ね、平和の地域共同体をつくりあげた経験が、ASEANという形で現に存在する。その経験に深く学び、ASEANと協力して東アジアの平和構築を進めよう。そして、私たちは、日本国憲法第9条という世界平和のための最良の指針をもっています。それに徹底的に依拠した平和外交を進めよう。こうした基本的観点にたって「東アジア平和提言」をまとめました。
理想を掲げつつ、「現実的アプローチ」に徹している
第二は、理想を掲げつつ、「現実的なアプローチ」に徹しているということです。国際的な提案を真に力あるものとするためには、現に存在している枠組み・さまざまな取り決めに依拠して、前に動かすという立場が重要だと考えました。
たとえば、「提言」では、ASEANと協力して、「ASEANインド太平洋構想(AOIP)」の実現を共通の目標にすえ、東アジアサミット(EAS)を活用・発展させて、東アジアの平和構築をはかることを提唱しています。東アジアサミット(EAS)は、現に存在している枠組みであり、AOIPもすでに国際社会で広く支持されている構想です。それらを本気で生かして前に進もうという提案は、誰も否定できないものだと思います。
また、「提言」では、日中関係の前向きの打開のために、「互いに脅威とならない」との2008年の日中首脳合意をはじめ、三つの点での両国政府の現に存在している「共通の土台」に着目し、それを生かすことを呼びかけましたが、この提起は、日中両国政府から肯定的に受け止められました。
さらに、「提言」では、朝鮮半島問題の解決のために、「朝鮮半島の非核化と、北東アジア地域の平和体制の構築を、一体的、段階的にすすめる」ことを提起しています。これはこれまでの米朝間、南北間、日朝間、6カ国協議などの合意・到達点を踏まえたものとなっています。困難は大きいものがありますが、真剣に平和的解決を求めるなら、その理性的方向はこの道しかありません。そのことは「提言」をもっての国内外の専門家との意見交換でも共通して指摘されたことでした。
排除の論理でなく、包摂の論理を貫いている
第三は、あれこれの国を排除するブロック的対応でなく、すべての国を包み込む――排除の論理でなく、包摂の論理を貫いていることです。
ASEANから学ぶべき最大の内容の一つもこの点にあります。ASEANは、その「中心性」――自主独立と中立の立場を貫くとともに、東アジアサミットなどASEANが中心になって進めているあらゆる枠組みで、あれこれの国を排除することを厳にいましめ、すべての関係国を包摂し、ともに一つのテーブルについて話し合うことを大原則にしています。私たちの「提言」も、この精神――包摂の論理――インクルーシブの論理を、その全体の隅々に貫くように心がけて作成しました。
たとえば、どうやってウクライナ侵略を終わらせ、欧州の平和と安定を回復するか。「提言」では、「民主主義対専制主義」という特定の価値観で世界に分断を押し付けることや、イスラエルの蛮行を擁護する「ダブルスタンダード」の弱点をあらため、「国連憲章を守れ」という一点で世界の圧倒的多数の国ぐにが結束する重要性を訴えています。そのうえで欧州の平和と安定を回復するためには、きわめて困難であっても欧州安全保障協力機構(OSCE)というロシアも含めて欧州のすべての国を包摂する平和の枠組みの再活性化が重要になってくるのではないかと提起しています。
いまの世界の流れを大きく見たさいに、一方で、軍事的対応、ブロック的対応を強化し、核抑止に依存し、世界の分断・対立を深刻化させる流れがあります。アメリカによる軍事ブロック強化と、中国やロシアによる軍事的対抗の強化が、世界と地域に、軍事対軍事の危険な悪循環をつくりだしています。
同時に、他方で、包摂的な枠組みを重視し、非同盟・中立を志向し、非核地帯条約によって核抑止と決別している流れがあります。この流れが、東南アジアで平和共同体の目覚ましい成功という形であらわれているとともに、ラテンアメリカ、アフリカでも、困難や曲折をへながらも発展していることは注目されます。その根底には、20世紀に進んだ植民地体制の崩壊と、百を超える独立国家の成立という世界の構造変化があります。私たちの「提言」は、世界のこうした本流と響きあうものとなっているのではないかと考えるものです。
「対話と外交で東アジアに平和をつくる」――この一点で力を合わせよう
第四に、「提言」は、東アジアに平和を構築するうえで、草の根の運動を国内外でつくることを呼びかけました。
これは何よりも核兵器禁止条約の成立に学んでのものでした。この歴史的条約の成立は、被爆者を先頭にした市民社会の草の根での運動なしにはありえませんでした。その教訓を、東アジアの平和構築にもぜひ生かしていきたいと思います。
そのためにも、私たちは「提言」を、立場の違いを超えて広く共同が可能なものとなるよう心掛けました。日本共産党は、日米軍事同盟を国民多数の合意で解消し、非同盟・中立・独立の日本をつくることを綱領の大方針としています。同時に、「提言」をまとめるにあたっては、軍事同盟に対する賛成・反対の立場を超えて緊急に共同可能なものとしました。
またわが党は、軍事的抑止力の強化で平和をつくるという考えには賛成しません。同時に、「提言」では、「抑止」に対する考え方の違いはあっても、あまりに「外交」が足らない、まずは「外交」の努力をすべきではないかという方々とも広く共同が可能となるような内容にするよう心掛けました。
立場の違いをこえ、「対話と外交で東アジアに平和をつくる」――この一点で、知恵を集め、力を合わせようではありませんか。
最後に、わが党は、「提言」発表後、パリ平和国際会議、中国上海での学術交流会、欧州左翼の夏季セミナーなどに代表団を派遣し、「提言」を紹介しつつ対話と交流を重ねてきましたが、どこでも「提言」が平和への明るい希望を示すものとして歓迎されました。「提言」を力に、国際的な対話と共同、連帯の発展のためにも力をつくすことを表明して、私の発言といたします。