2024年7月13日(土)
主張
PFAS評価書
これで本当に健康守れるのか
本当に市民の健康が守れるのか、疑問が残る内容となりました。発がん性、コレステロールなどの脂質異常、新生児の体重抑制、免疫機能低下などの健康影響が指摘される有機フッ素化合物(総称PFAS)について、国の食品安全委員会が6月に出した健康影響に関する評価書です。
PFASは人工的につくられた化学物質で数千~1万種類以上あります。環境中で分解されにくい特徴から「永遠の化学物質」と呼ばれます。フライパンなどのフッ素樹脂加工や半導体製造、泡消火剤など多様な用途で使われてきました。
■米欧と比べ緩い値
代表的なPFOS、PFOA、PFHxSについては、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約で製造や使用などが制限されています。しかし、すでに米軍基地や工場周辺などでは深刻な汚染が広がっており、世界的に規制の流れが強まっています。
日本では食品安全委が科学的知見にもとづくリスク評価をすすめてきました。今回の評価書は、「ヒトが一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される」とする耐容1日摂取量の指標値を、PFOSとPFOAについてそれぞれ体重1キロ当たり20ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)と設定。PFHxSについては「指標値の算出は困難」としました。
これは米欧と比べ非常に緩い値です。米環境保護局はPFOSを同0・1ナノグラム、PFOAを同0・03ナノグラムと設定。欧州食品安全機関はPFOSとPFOAを含む4種類の合計で同0・63ナノグラムとします。米欧の数十~数百倍の摂取を問題ないとするものです。
日本の耐容1日摂取量を体内に取り込み続けた場合、血中濃度が、米独の専門機関が健康への影響が懸念されるとするレベルの十数倍になるという専門家の試算もあります。
緩い値となったのは、作業部会が科学的証拠の確実性にこだわったからです。評価書には、証拠・知見が「不十分」という言葉が並び、米欧がリスク評価に採用した研究報告のほとんどを指標値算出の対象から除外しました。国際がん研究機関が認定した発がん性も「判断できない」としました。その背景に、産業界や米軍への忖度(そんたく)はないのか疑念の声もあがっています。
■見直しする必要性
作業部会では、指標値について「大丈夫ですと言っているわけではない」「けっこう危うい値」などの発言が出され、結果を見直す必要性も指摘されました。
今後、飲料水や食品、土壌など、関係省庁が基準値を策定する際は今回の評価の不十分さを踏まえる必要があります。証拠の不確実性を理由に「危うい値」を設定した今回の評価書は、因果関係に科学的な不確実性があっても予防的に対応する「予防原則」の立場で早急に見直すべきです。
政府は、全国の水道業者に水質調査を行い9月末までの報告を求めています。結果を速やかに公表し、汚染が確認された地域では住民の血液調査などを行って実態を把握する必要があります。排出源を明らかにして対策を取るべきです。対策費用の負担など排出源の企業や米軍の責任を問わなければなりません。