2024年7月10日(水)
主張
公的年金財政検証
削減路線の破綻ますます明瞭
将来、安心できる年金が受け取れるかは全世代にとって大きな問題です。政府は3日、公的年金の2024年度「財政検証結果」を報告しましたが、これには大きな問題点があります。
■5年前より改善?
公的年金の「財政検証」は5年ごとに行われます。今後おおむね100年後までの年金財政の見通しを推計するものです。
今回の検証では、出生・死亡・外国人の流入などによる人口の変動と、今後の経済成長の予測(4パターン)を組み合わせた34通りの試算と、各種の制度変更を行った場合の試算も行っています。その結果、5年前の試算(19年度財政検証)に比べて、将来の年金の目減り幅が若干少なくなるなど、年金財政が改善したとされています。
しかし、改善した主な理由は、高齢者や女性の就労が予想よりも増えたことと足元の株高で年金積立金が増えたことによるものです。必ずしも、年金財政の仕組み自体がうまくいっているわけではありません。
それどころか、重大な問題やゆがみがあります。
第一は、今後の経済についての見通しの甘さです。検証の4パターンのうち、「高成長実現ケース」と「成長型経済移行・継続ケース」では、実質成長率1・1~1・6%、実質賃金上昇率1・5~2・0%が続くと仮定していますが、多くの専門家から「甘すぎるのでは」という疑問の声があがっています。
この二つのケースではモデル世帯(サラリーマン夫婦片働き)の年金目減りは6~7%ですが、より悪い経済条件を想定した「過去30年投影ケース」では17・6%も目減りします。
■低年金ほど目減り
第二に、低年金の世帯ほど年金の目減り率が高くなることです。基礎年金だけしかない自営業者などの世帯では、「高成長」「成長型移行」のケースでも10~12%、「過去投影ケース」では30%近くも年金が目減りしてしまいます。
こんなことになるのは、年金制度に組み込まれている「マクロ経済スライド」の仕組みで、年金の1階部分に当たる基礎年金の方が、報酬比例年金(厚生年金の2階部分)よりも大幅に削減されるようになっているからです。
第三に、今回の検証結果ではマクロ経済スライドの矛盾がいっそう明らかになりました。積立金の増加などで「高成長」「成長型移行」のケースでは報酬比例年金はこれ以上削減する必要がなくなるだけでなく、現在の年金額を維持しただけでも厚生年金財政は毎年黒字となり、さらに積立金が増えていきます。
この結果、「成長型移行ケース」では2120年度時点の厚生年金の積立金は年金給付の23・2年分に相当する1京7371兆円に膨れあがります。これは現在価格に換算しても699兆円で現在の292兆円の2・4倍です。高齢者1人当たりの積立金は3500万円にもなります。
基礎年金だけの低年金を10%も目減りさせながら、一方で巨額の積立金をため込む―こんな年金削減の仕組みの破綻は明らかです。
物価高騰に苦しむ現在の年金生活者はもちろん、将来の年金を守るためにも抜本的な改革が必要です。