2024年6月3日(月)
主張
学術会議任命拒否
政府は情報公開し責任はたせ
理由も明らかにせずに、菅義偉首相(当時)が日本学術会議会員6人の任命を拒否(2020年)した問題で、法律家や任命拒否された6人の学者が拒否理由の情報公開などを求める二つの行政訴訟を起こしています。第1回口頭弁論が5月29日に東京地裁で行われ審理が始まりました。
訴訟に先立ち法律家1162人が情報公開法に基づき行政文書の開示を求め、当事者6人が行政機関個人情報保護法に基づき自己情報開示を求めていました。
しかし、国が任命拒否の根拠・理由のわかる文書はすべて「不存在」として不開示処分にしたことから、原告らは不開示の取り消しと損害賠償を求めて司法に訴えたものです。
■法解釈勝手に覆す
学術会議は「わが国の科学者の内外に対する代表機関」として、政府から独立して職務を行うアカデミー(学術機関)です。会員は学術会議自らが「優れた研究又は業績がある科学者」から選考し、その推薦に基づいて首相が任命します。「形式的任命にすぎない」というのが政府の一貫した法解釈でした。任命拒否はこれを勝手に覆して学術会議の人事に介入し、学問の自由を侵害したものです。
第1回口頭弁論で、任命拒否されたひとりの加藤陽子東京大学教授は、菅首相が「人事のことなので説明を差し控える」とのべたことが、「(学者としての)欠格事由あるいは忌避される理由があるかのように人々に類推させた」と、学者としての名誉を侵害されたことを痛切に訴えました。わが国の学術に深刻な被害をもたらしたのです。
■学問の自由を侵害
こうした重大な行為について、根拠や理由を記録した行政文書が存在しないはずがありません。なぜ6人だけを不適任と判断したのか、政府にはその根拠を説明する責任があり、全面的に情報を開示すべきです。
政府が主張する「不存在」が事実なら、公文書管理法が定める公文書の作成義務(第4条)や保存義務(第6条)に明らかに違反しています。それは、国民主権と健全な民主主義の根幹を揺るがすものです。
第2次安倍政権以来、政府に都合の悪い文書の隠蔽(いんぺい)が横行しました。今回の訴訟でも隠蔽を許せば、学術会議の独立性と学者の人格を侵害する違法行為が、恣意(しい)的な理由でまかりとおることになります。憲法が保障する学問、思想・良心、表現の自由に深刻な萎縮効果をもたらすものです。
開示請求手続きのなかで、20年6月12日付で6人の氏名にバツ印をつけた文書が、「任命者側」(首相側)から学術会議事務局に伝達されていたことが判明しました。学術会議が会員候補105人を確定した同年6月25日の幹事会より前に内閣官房が候補者名簿を入手し、その中から6人の除外を指示したことを示しています。学術会議の自律的な選考過程に介入する行為です。学術会議がはね返したため、任命段階で拒否したことになります。
任命拒否の経過の全容を明らかにすることは、わが国の民主主義と学問の自由を守る上で重要な意義をもちます。岸田文雄政権は判決を待たずに情報を開示し、6人をすみやかに会員任命すべきです。