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2024年5月23日(木)

主張

食料困難対策法案

増産強制でなく自給率確保を

 食料自給率が38%まで落ち込んだ日本で、世界的な気候危機や戦争で食料の輸入が途絶えたらどうなるか。それに備えて国民の食料を安全・安定的に確保するのは国の責任です。

■刑事罰科し強権で

 しかし、そうした事態に際し、農家を刑事罰で脅して、“増産しろ”“生産転換しろ”と強制していいのでしょうか。そう言わざるを得ない法案が国会で審議中です。食料供給困難事態対策法案です。

 同法案では、まず、(1)異常気象など食料不足の「兆候」が起きたら農家に増産を要請します。(2)実際に食料不足が起きるなど「食料供給困難事態」とされると「要請」から「指示」に切り替わり農家に増産計画の届け出を命じ、従わないと罰金を科します。(3)それでも食料が確保されないとなると、さらなる増産など計画の変更を指示され、従わないと罰金です。(4)さらに食料不足が深刻化すると、作付け品目転換を含む計画変更を命じられ、国民には配給制度が実施されます。

 これらの過程で必要とされると、立ち入り検査され帳簿などを調べられます。検査を拒んだり、求められた報告をしないと罰金。届け出計画通りに生産していないとされると名前を公表され、社会的制裁にさらされます。実質的に農家に作付けを強制するものです。

■離農を加速させる

 日本共産党の田村貴昭衆院議員は国会で「罰金まで科されて強制されるんだったら、離農して別の仕事につく」という農家の声を紹介し、資材高騰に苦しみ、生産費を賄えない低価格の下で「農業で食っていけない」と離農者が増えるなか、緊急時だからと作付けを強制してもうまくいくはずがない、離農を加速させるだけだと追及しました。

 輸入が途絶える不測の事態に備えるためには、食料自給率を向上させるとともに備蓄の強化が必要です。平常時から安定供給できるよう支援し、安心して農業ができる基盤の強化が不可欠です。

 ところが政府は、米価の暴落を放置し、生乳生産の削減・廃棄を押し付けています。しかも、今国会で審議中の食料・農業・農村基本法改定案では、食料自給率をいくつかの指標の一つに格下げし、輸入は食料安全保障の名で「安定的な輸入」の確保を図ると位置づけを強めました。

 既に政府は「緊急事態食料安全保障指針」を策定しており罰則で強制するような法律は必要ありません。農家の苦境を放置しているからこそ、「法律によって縛りをかけないと農家は絶対聞いてくれない」(野村哲郎元農水相の記者会見)という発想になるのです。

 戦前、国家総動員法に基づき施行された臨時農地等管理令も、罰則により作付け統制、生産転換を強いるものでした。

 今回の法案は、安保3文書の改定と軌を一にして出されてきたものであり、戦時体制づくりの一環にほかなりません。

 しかし、この法案で国民の食の安定的確保ができるはずありません。食料安全保障というなら、歯止めなき輸入自由化・市場まかせの農政を転換し、価格保障・所得補償で農業の持続的な発展や農村の振興を図り自給率を高めるべきです。


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