2024年5月11日(土)
主張
戦争する国づくり
メディアは危険な中身伝えよ
メディアはいったい何をしているのか。歯がみする思いです。
「戦争する国づくり」への道を踏み固める重大な法案が、多くの国民に中身が伝えられないまま成立しました。アメリカなどと兵器の共同開発をすすめるための経済秘密保護法と、陸海空の自衛隊を一元的に指揮する統合作戦司令部の創設を盛り込んだ改定防衛省設置法です。どちらも日本の今後に大きな影響を与える法律です。
■重大法案を報じず
しかし、NHKをはじめテレビのニュース番組では成立後まで、その中身はほとんど報じられずにきました。国民の多くは、これらの法律がどんな意味を持つか知らされないままです。
テレビニュースは連日、栃木県で起きた殺人事件をトップニュース扱いで報じ、ゴールデンウイークの人出を繰り返し流してきました。それらが大事なニュースでないとは言いませんが、他に報ずべきことを報じていないのは確かです。
経済秘密保護法は、漏えいすると罰則を科される国家機密の範囲を大幅に広げるものです。秘密にかかわるとされる民間企業の労働者や大学の研究者が、「適性評価」(セキュリティー・クリアランス)で事実上の思想調査を受けます。秘密の範囲は政府の恣意(しい)的判断で決まり、秘密漏えいの共謀・教唆・扇動としてジャーナリストが処罰される恐れがあります。メディア自身にかかわる重大な問題ですが、それもほとんど取り上げられていません。
改定防衛省設置法は、米国の要求に従って自衛隊に統合作戦司令部を創設し、米軍の指揮下で海外での戦争に参加する道を開く憲法違反の法律です。
どちらも、憲法の下で「平和国家」として歩んできた日本を「戦争する国」に変える、重大で危険な法律です。国民に詳しく伝えるのはメディアの責任です。
■政局ばかり追って
なぜその責任が十分に果たされていないのかと考えると、メディアが「不偏不党」「公正中立」の名の下に、法案の中身を批判的な目で見ず、政局や政党、国会の動向ばかり報じるものになっているからではないでしょうか。国会の動きだけを追っている限り、自民・公明だけでなく立民・維新・国民などの賛成多数で成立した両法案は「対決法案」でもなく、たいして報じられないのです。
その大本には、大手メディアの大部分が支配勢力の下に置かれ、権力の監視役としての仕事を放棄していることがあります。
戦前、大手新聞は侵略戦争推進のキャンペーンを行い、ラジオ放送を含む報道機関は軍部の「大本営発表」を流し続け、侵略戦争推進の一翼を担いました。戦後、報道機関はその反省の上に出発したはずです。
岸田文雄政権は国民の支持を失いながら、大軍拡や殺傷武器の輸出解禁など「戦争する国づくり」をすすめ、法案を次々通そうとしています。地方自治体を有無を言わせず国に従わせる地方自治法改定案など審議中の法案もあります。日本が再び誤った道にすすまないために、メディアはその中身をしっかりと国民に伝え、権力を監視するジャーナリズムの役割を果たすべきです。