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2024年5月7日(火)

政治考

独立と平和の礎

安保廃棄の党の存在意義

 4月の日米首脳会談では日米軍事同盟の歴史的大変質が打ち出されました。共同声明では「過去3年間を経て、日米同盟は前例のない高みに到達した」「グローバルなパートナーシップの中核である日米安保条約に基づく安全保障協力は、かつてなく強固」と宣言。強化された日米同盟体制の中核に日米安保条約があることを確認しています。こうした中でいま、同盟強化の表れに反対するとともに、その基礎にある安保条約そのものに反対し、その廃棄と日米友好協力条約への転換を求める日本共産党の主張に対し、「非現実的」「野党共闘の障害」などとして安保廃棄の主張を投げ捨てるよう求める言説、激しいバッシングが強まっています。安保条約廃棄を求めるたたかいの意義について考えます。


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(写真)日本共産党の第29回党大会=1月18日、静岡県熱海市

 元外務省国際情報局長の孫崎享氏は、「米国の戦略に沿って進められるミサイル配備、今回の日米会談で確認された司令部の統合などで、日本が中国や北朝鮮を撃てば、日本は反撃を受け遥かに大きな被害を受ける。軍事的にも合理性はない。この意味で、日本の安全にとって非現実的な主張をしているのは日米同盟強化派の方だ」と語ります。

 同時に孫崎氏は「キッシンジャーをはじめアメリカの指導者たちは、安保条約によってではなく、米国の利益になる場合に米国は日本を守ると繰り返し言明している。日米安保が日本を守るというのは幻想だ」と指摘します。現に在日米軍は、海兵遠征軍・空母打撃群・遠征打撃群・航空宇宙遠征軍という四つの殴り込み部隊で構成されており、いずれの部隊にも日本防衛の任務はありません。孫崎氏は、「この意味でも『安保で日本が守られる』という主張にはそもそも現実性がない」とします。

 政府・自民党にも近い安全保障問題の専門家の一人は「今回の日米首脳会談の最大の問題は、自衛隊が米軍の指揮下に入ることだ。安保条約は、もともと主権国同士の条約というより米国の属国として条約に入ったもの。その状況がずっと続きついにここまで来た。中国と自衛隊が戦闘に入れば米軍は遅れて来て日本の“後方支援”をする。冗談のようだが最も危険なシナリオだ」と警告。「専門家はわかっているが誰も言わない。言えば飯が食えなくなり、ターゲットにされる」と述べます。

 安保体制と国民の矛盾は極限に達しています。米中覇権争いの最前線での戦争の危機、事故機・オスプレイは十分な検証もないままわが物顔に日本の空を飛びまわり、沖縄の民意を踏みにじって辺野古新基地建設を強行しています。

 安保条約と正面対決する日本共産党がいなければ、日本の平和と独立のたたかいの礎を失うことになります。

支配勢力の戦争政策と激突

体制にとって一番怖い相手

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(写真)軟弱地盤が広がる海域の埋め立て関連工事が強行されている大浦湾=2月1日、沖縄県名護市(小型無人機で撮影)

 「日米同盟には二つの軸がある。一つは在日米軍基地をどう使うかという問題。もう一つは米国の戦略に沿って海外で自衛隊をどう使うかという問題だ」

 孫崎氏はこう指摘します。

 そのうえで自衛隊を米国の戦争でいかに使うかは、基本的には安保条約の枠を超えた問題だとし「非常に重要なポイントは、国会を通さず、日米2プラス2(日米安全保障協議委員会、防衛相・外相会談)やガイドライン協議の中で合意していることだ」と強調。「2プラス2協議に従って、日本は米国に合わせた共通の体制をつくる。それがいま非常に危険な段階にある」と語ります。

 集団的自衛権行使の体制、敵基地攻撃能力の保有という危険な実戦装備、そして日米の司令部統合など、安保条約を超え、憲法を超えた体制の変革です。条約改定も憲法改定も経ず、日米安保条約は基地条約から公然たる攻守同盟条約への変貌を遂げています。

 孫崎氏は「その根本にあるのが安保条約とそれによって形成されてきた日本の異常な対米従属の体制だ」と指摘。「この意味で共産党が安保廃棄を主張するのは特殊なイデオロギーではない。特殊どころか世界に目をやれば、日米安保のように国土のどこにでも、好きな時に好きなだけ基地をつくり、外国軍隊が活動できる国はもはやなくなっている。安保はいわば占領状態の継続だ。世界の流れからいえば、そういう隷属状態からの自立をめざす安保廃棄の主張はすう勢だ」と語ります。

 奥野恒久龍谷大学教授(憲法学)は「日本国憲法の立場から言えば、憲法はすべての国の人々に平和的生存権を保障しているのに対し、軍事同盟は仮想敵をつくり軍事力で抑え込むもの。そもそも根底のところで安保と憲法の理念とは矛盾する」と語ります。

 共同通信元編集委員で『戦後政治に揺れた憲法九条』『世界覇権と日本の現実』(新著)の著書がある中村明氏は、「米国は日本の自衛隊を使って中国と戦端を開き、中国を疲弊させる狙いだ。日本は捨て石になる危険が大きい」と警告。「経済や金融面での米国への従属も強まっている。この動きの背景にあるのが安保条約であり、長い記者生活の中で、米国の軍人や官僚がいかに横暴なふるまいを続けてきたか、その実態を外務省や財務省の役人から聞いてきた」と述べます。そのうえで「私は保守でもリベラルでもなく愛国の立場から日米安保に反対する。そうした愛国の立場から唯一、日米安保に反対してきたのが共産党だ。日本の独立自尊を訴える共産党がなくなったら日本は終わりだ」と語ります。

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(写真)戦争法案に反対する集会であいさつする志位和夫委員長(当時)=2015年6月24日、国会前

共闘におびえ

 一方で孫崎氏は「ミサイル配備や集団的自衛権行使容認など、緊急の課題で協力を強めることは当然だ」と強調。「共産党は安保廃棄という綱領の課題を脇に置くと言っている。それなのに『安保廃棄の党と一緒にやるのは野合だ』というのは共闘分断の口実に過ぎない」と批判します。

 日本共産党は、安保条約を容認する党とも立憲主義回復・安保法制廃止を旗印に共闘を進め、党主導で新たな政界の民主的改革に挑戦してきました。

 支配勢力は、市民の声を背景に進む安保法制廃止の共闘の動きに脅威を感じ、共闘分断と共産党攻撃を強めてきました。

 奥野教授は、「最終目標は違うが、危険な現実を少しでも憲法に近づけるため途中まで一緒に進むのが共闘だ。緊急課題の根本にある条約の危険性を訴えることは、両立するし相互に追求すべき課題であり、ここにくさびを打ち込むのが今の攻撃だ」と強調します。安保条約廃棄の不動の立場と、安保法制廃止など緊急課題での共闘を主導する共産党の二重の取り組みが、米国はじめ支配勢力の戦争政策と激突しています。

リベラル潰し

 外務省の国際情報局長として米国の対外工作の歴史も見てきた孫崎氏。「米国はまずリベラル勢力を潰しに来る。米国の工作で一番重要なのは野党だ。公明党や社会党も全部、安保容認の方向に取り込んで行った」と指摘します。

 実際、1970年代前半には社会党、公明党なども安保廃棄を掲げていました。それが78年に公明党が安保容認にかじを切り、80年には「社公合意」で社会党も安保容認と共産党排除に路線転換していったのです。

 孫崎氏は「こうしてリベラル系から崩されていく。米国はこうした圧力を共産党にはかけられないと思っている。だから日本の政治で共産党はものすごく重要な役割を果たしている。共産党をはじめ日米安保の問題性を主張する勢力が、その火を消さないことはどんなに貴重なことか」と述べます。

 奥野教授は「共産党は草の根の組織を持ち他の政党にない強さをもっている。全国の支持率が5%だとしても、その人たちは政治に関心を持ち、必要があれば自ら歩き、署名も集める人たちだ。体制側からすれば一番怖い相手。だからこそ『共産党の主張は非現実的だ』とバッシングして抑え込もうとする」と述べます。

 そのうえで「もし共産党が安保廃棄を投げ出し、日本の政治から安保廃棄の勢力がなくなったら、日本の外交・安保政策で安保に代わる9条に基づく平和外交の選択肢と構想が出せなくなってしまう」と語ります。

 日本共産党は安保廃棄の主張と同時に、東アジアの平和構築のために外交提言を示しています。東南アジア諸国連合(ASEAN)とも協力し北東アジアに包摂的な対話の枠組みをつくること、日中間の対話の促進をはじめ北東アジアに固有の外交諸懸案について独自の取り組みを強めることを提起し、政府間の取り組みと同時に、市民運動をアジア規模で広げようと呼びかけています。

 (中祖寅一)


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