2024年2月6日(火)
社会リポート
奪われた産声 シール材溶け雨漏り
鹿島建設提訴の病院 悲鳴
「雨漏りで病院の機能が停止しています」。関東地方にある産婦人科病院から悲痛な訴えが日本共産党に寄せられました。建物を施工したのは大手ゼネコンです。タイルなどの隙間を埋めるシーリング材(シール材)の欠陥が疑われています。同材は今も現場で使われています。(芦川章子)
![]() (写真)病院の外壁の窓枠から溶け出たシール材 |
「年間600件のお産を、すべて中止せざるを得ません。痛恨の極みです」。院長は悔しさをにじませます。
病院は鉄骨の地上5階建てです。雨漏りは全体に及び、分娩(ぶんべん)室、病室約20床などの使用を中止しています。かつて「赤ちゃんの甘い匂い」で満たされ、産声が響いた空間は今、静寂に包まれています。
他物件でも軟化
建物の完成は2004年。異変が始まったのは13年、待合室の壁に浮き出たシミでした。病院側の問いに、施工した鹿島建設は「結露が原因」と説明。病院が費用を出し、修繕を1年続けましたが、雨漏りは広がりました。
「おかしい」。知り合いの大工に頼み、壁を壊し、院長は仰天しました。外壁と内壁の間の空洞に雨水がたまっていました。雨天時にはボトボトと止めどなく雨水が注ぎこみます。
異変は外壁にも。窓枠などのシール材が広範囲に溶けだし、落下していました。触るとねっとりと付着します。
「溶けるなんて」。院長はシール材の欠陥を疑い調査を続け、損害賠償を求め訴訟に踏み切りました。
本紙が確認した裁判資料によると、鹿島建設は、外壁に使用したのは「硬化剤の主原料をイソシアネートとしたポリサルファイド系シーリング材」だと説明。同社が同シール材で施工した他物件でも「軟化した建物がある」と認めています。
同病院のシール材の軟化については「経年劣化の範囲を超えている」として、同社の負担でシール材の打ち替えを提案しています。
![]() (写真)病院の内壁と外壁の空間。水がたまっています |
共産党の調査に
問題のシール材は他の建物でも使われているのか。
日本共産党の小池晃参院議員事務所が経済産業省に聞き取りしたところ、2000年代初頭から複数メーカーが製造したシール材に“溶ける”製品があると説明。「現在も流通しているが、改良を重ね問題は改善している」(経産省)といいます。
ゼネコンのある下請け業者の社長は「シール材の軟化と漏水の関係は確かではない」としつつも、シール材の軟化は「業界では有名。あちこちのビルで起きている。施工後5年ほどで練りたての状態に戻る」と話します。
問題のシール材の製造を中止し、被害に対応している企業もある一方、撤退した企業、製造を続けている企業もあります。この社長は「シール材メーカーは根本的な対策と責任を取るべきだ」と指摘します。
今、全国で分娩を扱う病院が足りません。院長は「この地域から周産期医療を奪ったことは心の底から許せない。早く元に戻し、お産を再開させたい」といい、訴えます。
「事実を認めさせるのに10年もたたかった。同じような被害にあっても『経年劣化』と言われ、補償もされず、泣き寝入りしている人も多いのではないか。この事実を多くの人に知らせたい」
鹿島建設は本紙の質問に「現在係争中のため、回答を控えさせていただきます」とコメントしています。










