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2024年1月31日(水)

岸田首相の施政方針演説

暮らし破壊・大軍拡 暴走続ける姿勢

 「国民の信頼回復を果たす」―。裏金事件で自民党政治が根底から揺らぐ中、岸田文雄首相は30日、施政方針演説を行いました。しかし、裏金の真相解明には背を向け、対策もすり替えばかり。能登半島地震の被災者や、物価高で苦しむ国民をよそに、暮らし破壊と大軍拡の暴走を続ける姿勢を示しました。

能登半島地震

復興口実 リニア・万博推進

写真

(写真)岸田文雄首相が施政方針演説を行う衆院本会議=30日

 「被災者に寄り添い、生活と生業(なりわい)をしっかり支えていく息の長い取り組みを続けていく」―。岸田首相は、能登半島地震の被災地を訪れ、被災者から苦労や不安な思いを聞いたと強調しましたが、避難所に避難できず、車中泊やビニールハウスで過ごしている被災者の実態には触れませんでした。しかも、過去の災害対応と比べて「新しい取り組み」が生まれたとして官民連携による物流システム、ドローン配送などの活用を自画自賛しました。

 被災地では、断水でトイレが使えずに衛生環境が悪化し、避難所に段ボールベッドやペットボトルなどの支援物資が届かず、昼食も十分に提供されないなど悲惨な状況が続いているのが実態です。岸田首相は「できることはすべてやる」「絆の力」と言うだけで、避難所の改善、住宅確保や生活と生業再建などの具体策を何も語りませんでした。

 深刻なトラブルが起きた北陸電力志賀原発(石川県志賀町)に一言も触れない一方、原発の「活用」を宣言しました。避難計画で避難ルートとなっている山間部や沿道は道路の寸断や津波で通れず、避難計画が「机上の空論」であることは明らかです。

 さらに、“震災復興”を口実にした北陸新幹線の延伸、リニア中央新幹線の整備推進を主張。また、費用が膨張している大阪・関西万博の開催について、「新型コロナや大規模な自然災害を乗り越え、いのちへの向き合い方、社会の在り方を問い直す機会となる」などと正当化しました。

裏金事件

人ごと感 信頼回復ほど遠く

 自民党派閥の裏金事件をめぐっては、失われた国民の政治への信頼をどう取り戻すかが正面から問われています。岸田首相は「政治の信頼回復に向け、先頭に立って必ず実行していく」と述べました。しかし、その言葉とは裏腹に、裏金事件の真相解明を進める意思はまるでありません。

 岸田首相は「国民から疑念の目が注がれる事態を招いたことは、自民党総裁として極めて遺憾だ」というだけで、漂うのは「人ごと感」です。29日の予算委員会でも、野党の質問に正面から答えず、裏金づくりの実態は明らかになっていません。

 一方、「信頼回復」の方策として示したのは、政治刷新本部の「中間とりまとめ」です。「政治資金の透明化」や「コンプライアンスの徹底」などを掲げますが、その中身に具体性はありません。

 また、「自民党内の政策集団が、いわゆる『派閥』、すなわち『お金と人事のための集団』とみられても致し方ない状態にあった」と認めました。しかし、「派閥」を「政策集団」と呼び変えたところで、裏金づくりの仕組みそのものにメスを入れなければ自民党の体質は変わりません。

 いま真に求められるのは裏金事件の真相解明です。裏金の実態はいまだほとんどが不明のまま。自民党内で政治資金収支報告書の不記載がどれだけあるのかなどを調査し、全体像を示すべきです。

 具体的な法改正も明言しませんでした。パーティー券を含めた企業・団体献金の全面禁止を決断できるかが問われます。

経済・暮らし

消費税減税に背 非正規拡大

 岸田首相は「経済の再生が岸田政権の最大の使命」だとし、「昨年は30年ぶりの高い賃上げ水準」だったなどと胸を張りました。しかし、物価の変動を反映させた実質賃金は20カ月連続で前年を下回っています。「日本経済が新たなステージに移行する明るい兆しが出てきている」などと述べましたが、深刻な物価高のもとで苦しむ国民の実感とかけ離れています。

 「6月からは1人4万円の所得税・住民税の減税を行い、可処分所得を下支えする」と誇りましたが、国民の多数が望む消費税の減税には背を向けています。実効性のある賃上げ策を示せない一方、非正規雇用を拡大し、自己責任の押し付けと雇用の流動化を進める「三位一体の労働市場改革」を掲げました。日本経済に低賃金・不安定雇用を広げ、「失われた30年」をもたらした自民党政治を省みず、財界が要求する政策を押し進めようとしています。

 また、「女性の活躍を全力で後押し」とうたいながら、男女の賃金格差是正には一言も触れませんでした。

 岸田首相は「医療や福祉分野の幅広い現場で働く方々に対して、物価高に負けない『賃上げ』を確実に実現していく」と述べました。

 しかし、2024年度の介護報酬改定では、処遇改善を掲げながら訪問介護の基本報酬を軒並み引き下げます。介護現場は、ケア労働の低賃金と低待遇で担い手が減っています。他産業と比べて著しく低い賃金水準を大幅に引き上げるべきです。

 岸田首相は「前例のない規模でこども・子育て政策の抜本的な強化を図る」としましたが、肝心の財源は「徹底した歳出改革」によって確保するとし、社会保障を大幅削減する方針です。さらに保険料に上乗せして徴収する約1兆円規模の「支援金」を創設。国民負担増・社会保障給付削減で財源を生み出す構えです。

安保・外交

対話せず辺野古新基地強行

 「防衛力の抜本強化を着実に具体化する」―。岸田首相は安保3文書に基づく大軍拡推進を宣言しました。24年度予算案では、8兆円規模の軍事費を充て、敵基地攻撃兵器=長射程ミサイルの大量導入などを狙っています。岸田首相は、軍拡増税を含む財源確保策について「方向性を明確化し、取り組む」と述べ、増税推進姿勢をむき出しにしました。

 「日米同盟を強化する」と強調する一方、平和外交の道筋は語れませんでした。まさに米国追従の外交路線です。「核兵器のない世界」を目指すとしながら、「核抑止」を肯定する「G7首脳広島ビジョン」(23年5月)を「強固なステップ台とする」と宣言。署名・批准が広がり、世界から参加が求められている核兵器禁止条約を無視する異常さです。

 沖縄県辺野古の米軍新基地建設で、民主主義や地方自治を壊す「代執行」を強行する中、岸田首相は新基地建設を「進める」と明言。玉城デニー知事が求める対話による解決を一顧だにせず、強権性が極まっています。

 岸田首相は「普天間基地の一日も早い全面返還」を口実にしますが、軟弱地盤を改良できない新基地建設には完成する見通しはなく、普天間基地の危険性除去につながりません。今年で返還合意から28年がたつのに危険性を放置するのは政治の怠慢です。民意に反する新基地建設を中止し、普天間基地はただちに閉鎖・撤去すべきです。

 岸田首相が強化に取り組むと明言した「セキュリティークリアランス(適性評価)」は秘密保護法体制を民間企業まで拡大させるもの。「経済安全保障」に関わる労働者や研究者が機密を漏えいした場合に罰則を科すことで縛り、軍事動員させることが狙いです。日本弁護士連合会や市民団体から反対が相次いでいます。

若者たちに強い危機感

気候変動問題に言及なし

 「気候変動問題は今や『気候危機』とも言われていて、私たち一人一人、この星に生きる全ての生き物にとって避けることができない、喫緊の課題です」。2023年版環境白書はこう始まります。ところが、岸田文雄首相は施政方針演説で、気候危機打開の対策について具体的に言及しませんでした。

 23年は観測史上最も暑い年だったとされました。世界各地で異常な豪雨、台風、海面上昇などが大問題となり、日本でも重大な被害を及ぼしている気候危機。国連のグテレス事務総長は「地球沸騰化の時代」と述べ、世界に気候危機対策の具体的行動を呼びかけています。

 「私たちの未来が奪われる」「私たちが気候危機を止められる最後の世代」―。若者たちは強い危機感を持ち、抜本的な対策を求め立ち上がっています。

 しかし、首相は国連が求める30年までの石炭火力からの脱却には後ろ向き。原発の活用まで宣言する逆行ぶりです。「明日は今日より良くなる日本」というなら、若者たちが明るい未来を描けるように逆行姿勢を改め本気で気候危機問題に取り組むことが、国際社会における日本の責務です。(井)


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