2024年1月26日(金)
きょうの潮流
娘を返して―。突然わが子を失った母は声を震わせました。久しぶりに帰省した26歳の娘を事件前日に送り出してしまった後悔。「あの日に戻れるなら…」▼34歳の夫を亡くした妻は、幼子だった娘とのおしゃべりを楽しみにしていたとふり返りながら怒りをあらわにしました。「かけがえのない家族を放火といういちばんひきょうな手段を使って一瞬で奪った」▼36人が死亡し32人に重軽傷を負わせた京都アニメーション放火事件。京都地裁は、青葉真司被告の責任能力を認め死刑判決をだしました。「一瞬にして黒煙と炎に巻き込まれた被害者たちが抱いた恐怖、苦痛は計り知れない。被害者には何の落ち度もなく無念は察するに余りある」と▼自分のアイデアを盗用されたと復讐(ふくしゅう)心を募らせ、大勢が働くスタジオに侵入。ガソリンを社員に浴びせライターで放火し建物は全焼。屋内にいた多くが犠牲となった戦後最悪の殺人事件は社会に大きな衝撃を与えました▼自身も重いやけどを負った被告は、遺族らが思いをぶつけた裁判で後悔や謝罪の言葉を口にしました。しかし、こうした事件をなぜ起こしたのか。命を投げやりにする行動をどうしたら止められるのか。答えは見つかっていません▼やけどを負った社員のひとりは個人の力ではどうにもならないことがあるとしながら、法廷で決意を表しました。「そんな現実を受けてもなお希望を描けるのがアニメや漫画、小説などのフィクションだと思う。だから希望を語ることを、やめません」








