2024年1月18日(木)
主張
中東の緊張激化
紛争広げる武力攻撃をやめよ
イスラエルによるガザ地区攻撃に伴って、中東各地に軍事衝突が広がり、緊張が激化しています。11日には米英軍がイエメンの反政府武装勢力フーシ派の拠点を空爆しました。同派による民間船舶襲撃に対抗したものですが、国連憲章と国際法を踏みにじる行為です。紛争をエスカレートさせる点でも容認できません。衝突はレバノンなど周辺国でも起きています。暴力の連鎖はさらに深刻な事態を招きます。当事者は自制すべきです。何よりもイスラエルが無法なガザ攻撃をやめなければなりません。
憲章蹂躙する米英の空爆
イエメンはアラビア半島の南端に位置し、紅海の出入り口にあたります。紅海の北にはスエズ運河があり、欧州とインド洋を結ぶ重要航路となっています。
ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が激化した昨年10月、フーシ派はハマス支持を表明し、イスラエルに向かう船や同国を出港する船を標的にすると宣言しました。紅海を通る貨物船などにミサイルの発射や武装兵による襲撃を繰り返しています。船を拿捕(だほ)したり、船員を拘束したりもしています。バイデン米大統領は11日の攻撃について、国際海運に対する攻撃への対応だとする声明を発表しました。
民間船舶を手当たり次第に狙うフーシ派の攻撃は許されません。しかし国連憲章と国際法は、平和的手段による国際紛争の解決を義務づけ、各国の主権と領土保全の尊重を定めています。米英の空爆はこの原則の蹂躙(じゅうりん)です。
国連安全保障理事会は10日、フーシ派の民間船舶攻撃について決議を採択しています。国際平和の維持を規定した国連憲章と、海洋の法的秩序の確立を定めた「海洋法に関する国際連合条約」をもとに、フーシ派の行為を非難しました。同時に、国際社会の対応について、イエメンの主権と領土保全の尊重を求め、情勢の悪化を避けるよう呼びかけました。
イエメンでは、政府を支援するサウジアラビア主導の連合軍と、イランが支援するフーシ派との内戦が長期化していました。国連が仲介して停戦に合意し、昨年4月、和平に向けた交渉が始まりました。安保理決議は和平交渉への支持を求めています。
米英軍の攻撃は、安保理常任理事国自ら、決議をないがしろにするものです。イエメン和平に向けた国連の外交努力も損ないかねません。フーシ派はその後も商船にミサイルを発射しています。
イランが支援する、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラと、イスラエルとの攻撃の応酬も激化しています。国連機関によると、レバノンで1万人以上が避難を強いられています。同国では1月に入ってハマス幹部とヒズボラの司令官が相次いで殺害されました。ヒズボラはイスラエルの仕業として報復を宣言しています。
イスラエルは無法停止を
イスラエルのガザ攻撃による死者は、ガザ当局の発表で2万4000人を超えました。南アフリカは、イスラエルをジェノサイド条約違反として国際司法裁判所に提訴しています。イスラエルが無法な攻撃をやめない限り、武力紛争が拡大する危険性はなくなりません。一刻も早い停戦を実現するために、国際社会は外交努力を尽くすべきです。