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2024年1月17日(水)

きょうの潮流

 きょうは芥川賞の発表日。本欄恒例の候補作一気読みで、各作品の魅力を紹介します▼川野芽生(めぐみ)「Blue(ブルー)」は、高校演劇部で「人魚姫」に取り組む部員たちの多様な性的指向と性自認を描きます。人魚姫の恋する相手を王子から王女に翻案。苦悩する人魚姫を演じるのは、女性として生きることを望む男子です▼小砂川(こさがわ)チト「猿の戴冠式」は動物と人間の境界を超え心を通わせる女性を通して、人間中心主義の息苦しさと限界を痛感させます。引きこもっていた競歩選手のしふみは、テレビで動物園の雌のボノボを見て姉だと直感し通い始めます。ある日、園を抜け出し疾走するボノボ。追いかけるしふみ。その先には…▼三木三奈「アイスネルワイゼン」は、ピアノ教師の仕事にも人間関係にもどこか上の空で漂っていくしかない女性像を提示し、相互不信と分断が巣くう社会の空虚さをあぶり出します。安堂ホセ「迷彩色の男」は、日本で暮らすブラックミックスでゲイの受難を訴える著者の第2作。ヘイトクライムで切り刻まれた血まみれの身体の描写が差別の闇を可視化します▼九段理江「東京都同情塔」は、言葉の言い換えによって問題を糊塗(こと)した果ての世界を現出させます。犯罪者を「ホモ・ミゼラビリス(同情されるべき人々)」と呼び、刑務所を「シンパシータワートーキョー」と名付けて豪華な塔を建設する欺瞞(ぎまん)を笑う意欲作▼いずれも現代の深層に迫り、気づきと思索へと誘います。自分にとって大切な一冊を見つけてみませんか。


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