2023年12月30日(土)
政治考
派閥と金権
旧態依然の自民党
![]() (写真)『日本の政党』(自民党研修叢書)から |
自民党のパーティー券収入による裏金疑惑は派閥を舞台にした一大疑獄事件の様相を強めています。変わらぬ金権体質と派閥政治に国民の厳しい視線が注がれています。
汚職を繰り返す
自民党は、繰り返す汚職事件のたびに、幾度も「脱派閥」を口にしてきました。
リクルート疑獄を受けて1989年にまとめた「政治改革大綱」では、「政治倫理の確立」「近代的国民政党への改革」のためなどとして「派閥を解消」と宣言。「派閥と政治資金のかかわりや派閥の内閣、国会および党の全般にわたる人事への介在、派閥本位の選挙応援などさまざまな弊害」があると指摘し「現状のような派閥中心の党運営が続くならば、党が真の意味での近代政党、国民政党へ脱皮することは不可能である」として、党役員就任時の派閥離脱をはじめ諸改革を掲げました。ところが今回、旧態依然たる派閥政治の実態が改めて露呈しました。
1979年に自民党が発行した『日本の政党』(自由民主党研修叢書)は、今日の事態に連なる自民党の特質を鮮明に描いています。
同書は自民党について、左右両派が統一した社会党(1955年)に対抗するため「当時の保守系各派が合同してできた政党」であり「出発の時点から派閥の連合体だった」と明記。「資金、ポスト、その他の利益は派閥を通じて配分されるし、総裁選挙にあたっての活動も派閥単位に行われている」としています。
「野心家の連合」
また戦前からの保守政党の伝統を引き継ぐ自民党が「有力者の連合体」であることに変わりはなく、「その意味から自由民主党は『幹部政党』であって、党が国民大衆を組織する『大衆政党』ではない」とし「派閥とは、政局の中央にあって発言権を拡大しようとする中央の有力者(いわゆる「実力者」)と、地方にあって中央との結びつきを強めようとしている地方有力者との結合体である」と述べています。「政治的野心家の全国的な大連合」とも自ら規定。驚くほど率直に、自民党が理念や政策による結合体ではなく、権力志向で連携した前近代的な人的結合体であり、派閥は権力闘争の基盤、総理大臣をつくる集団だと自認しているのです。
そして「自民党に対する批判」として「特権階層の利害だけを代表する政党」とされていることをあげ、「この批判にはすくなからぬ説得力があった」とし、「確かに自由民主党の党財政は、従来から大企業の政治献金に大幅に依存してきたのは事実」「党の財政が大企業に過度に依存してきた」と認めています。これに対しては、党員の拡大で「開かれた国民政党」への脱皮をはかるとしていました。
権力・ポスト争いの礎 規範意識喪失
![]() (写真)家宅捜査が入った安倍派の事務所が入るビル=19日、東京都千代田区平河町 |
派閥を舞台とした裏金疑惑は、89年の「政治改革大綱」が口先だけの「反省」にすぎず、派閥が権力・ポスト獲得の基盤として依然として力を維持していることを示しています。
総裁選1人100万
自民党関係者の一人は「若手の登竜門である政務官・副大臣の推薦リストは派閥から出て、それに基づいて配分されている。大臣についてもいわゆる待機組から派閥が推薦し割り当てが決まる。ポスト配分では派閥は非常にきめ細かい役割を果たす」と語ります。別の自民党関係者の一人は「総裁選で(票集めに)使う金は1人100万が相場」とも語ります。権力闘争と派閥政治は不可分一体です。
こうした派閥の力を支える最大の要因の一つがカネであり、今回明るみに出た“形を変えた企業・団体献金”であるパーティー券収入がその大きな源泉となっていました。
自民党議員の一人は「党からもらえる金は年間1200万円で、1月あたり100万円」とし、これでは選挙資金や事務所の維持費、秘書などの人件費を賄いきれず、「派閥やキックバックに頼らざるを得ない面がある」と述べます。冠婚葬祭などの交際費、飲み食いなど使いみちはさまざまだが「基本的に選挙に使うカネだ」ともいいます。カネで選挙地盤を支え、ポストを買う根深い金権体質にも変わりがないのです。
キックバック(還流資金)を裏金化していたことは、選挙買収など表に出せない使い方をしていた強い疑いも生じさせます。
小選挙区制のもとで、総裁(首相)派閥、幹事長派閥、あるいは有力な総裁候補のいる派閥の力が相対的に増しているという面はあります。アベノミクスで空前の利益をあげ続けてきた企業集団がその見返りに、表の企業献金に加え、パーティー券の購入で安倍派、二階派を中心とする主要派閥にカネを流し込む構造について「そういうことは十分ある。他派閥からは恨みを買うこともある」(関係者)といいます。
自民の感覚まひ
一方で前出の議員は、「自民党の感覚はマヒしている。法を犯しているという感覚が全くない」と苦しげに語ります。まさに自民党を覆う現状は、規範意識のかけらもなくなっている異常な実態を示しています。
同党関係者の一人は「変わらぬ金権体質が国民から理解されることは難しい。時代の変わり目で、自民党は変われない。時代に取り残されることにならないか」と顔を曇らせました。(中祖寅一)










