2023年12月8日(金)
きょうの潮流
開戦の3カ月ほど前のこと。寝ぼけまなこの早朝に、特高の刑事がふみこんできました。わけがわからないまま逮捕され、留置場へ。それから1年以上、極寒の監獄に入れられました▼日常のくらしを絵にする美術教育に携わった教員や学生らが次々と検挙された「生活図画事件」。幼いころから絵を描くことが好きで当時、旭川師範学校の美術部員だった菱谷(ひしや)良一さんも危険思想の持ち主と決めつけられました▼思想や言論をはじめ、治安維持法によって際限なく広がっていった弾圧の対象。それは戦争の拡大と軌を一にしていました。人びとの生活がいかに締めつけられ、壊されていったか。その姿はいまも小説やドラマなどで描かれています▼戦後は平穏な日々を送っていたという菱谷さん。初めて体験を証言したのは、2006年に開催された「生活図画事件を語る会」。その後、政府によって共謀罪や秘密保護法が出てくると「姿を変えた治安維持法だ」と声をあげました▼弾圧犠牲者への国による謝罪と賠償を求める国会請願にも毎年参加。岸田政権が大軍拡を推し進めるなか、今年も北海道から駆けつけました。「あの暗い歴史をくり返してはならない」▼102歳となった菱谷さんは自伝『百年の探究―眞の自由と平和を思考し続けて』を上梓(じょうし)しました。命ある限り、この思いを今の人たちに伝えたい。「私は戦争の空の下に生き、それを語れる数少ないひとり。自由と平和、それだけを守って」。きょう太平洋戦争の開戦から82年。








