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2023年11月21日(火)

主張

映画公的助成判決

「表現の自由」守り抜く足場に

 文化庁所管の日本芸術文化振興会(芸文振)が、映画「宮本から君へ」に対する助成金交付を、出演した俳優の刑事処分を理由にとりやめたのは違法かどうかが争われた裁判で、最高裁第2小法廷は17日、不交付処分は裁量権の逸脱・乱用にあたり「違法」としました。原告の映画製作会社スターサンズの勝訴が確定しました。

 最高裁が芸術・文化への公的助成のあり方について判断したのは初めてです。憲法21条の保障する「表現の自由」の意義を重く受け止めた判決となりました。

「公益」の乱用に歯止め

 「宮本から君へ」はコミックが原作の映画で、池松壮亮さんと蒼井優さんが主演した青春ドラマです。2019年度キネマ旬報ベストテン邦画第3位となりました。

 芸文振は19年4月、専門家の審査で内定していた助成金1000万円の交付を製作会社に通知しました。ところが、撮影終了後の同年3月に出演者の一人、ピエール瀧さんが薬物事件で逮捕され、7月に有罪が確定しました。それを受け芸文振は「公益性」を理由に助成金交付を突然取り消し、製作会社が訴訟をおこしていました。

 一審の東京地裁は原告が勝訴しました。しかし、二審の東京高裁は「薬物乱用防止という公益の考慮は許される」として判決を覆し、原告側が上告していました。

 今回の最高裁は「芸術的な観点からは助成の対象とすることが相当といえる活動」について、「一般的な公益が害される」ことを理由に助成金交付を拒否することに、明確な歯止めをかけました。

 判決は、「公益」が「抽象的な概念」であり、選別基準が不明確になるため「表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性」があるとしました。そのうえで、表現活動の萎縮は「芸術家の自主性や創造性をも損なうもの」で、「憲法21条1項による表現の自由の保障の趣旨に照らしても、看過しがたい」と断じました。助成金交付に際し「公益」を考慮しうるのは「重要な公益が害される具体的な危険がある場合」に限るとしました。

 この論理は、芸術・文化への公的助成にあたっての基準として重要な意義をもちます。なぜなら近年、芸術活動に対して過剰な抗議や政治家による介入発言が行われる事態が相次いでいたからです。

 19年の「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」に対して、河村たかし名古屋市長らが展示内容を問題にし、文化庁が助成金を一時不交付とした後、減額支給しました。今回の最高裁判決は、こうした政治的圧力を抑止し、芸術・文化分野の表現の自由をまもる足場になります。

萎縮のない創造活動を

 芸術表現には、時に体制を批判し、人々の価値観を揺さぶるものも含まれます。表現の自由が萎縮すれば、民主主義は窒息します。

 芸術・文化への支援にあたり、欧州では「アームズレングスの原則」が広く認められています。政府や地方自治体が芸術・文化の支援にあたって「お金は出しても口は出さない」という考え方です。

 この原則にもとづく助成制度を確立し、萎縮や忖度(そんたく)のない自由な創造活動の環境づくりが求められます。日本共産党は、綱領に「文化活動の自由をまもる」ことを掲げる党として、芸術家・芸術団体の方々と力を合わせます。


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