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2023年11月15日(水)

きょうの潮流

 ばったり顔を合わせたのは、長崎にあった臨時の魚雷艇訓練所でした。ふたりはそろって写真をとり、実家に送りました。迫りくる死を前にした「遺影」として▼80年前の「学徒出陣」で海軍に入隊した兄と弟。やむなく特攻隊に志願し、兄は「回天」と「伏龍」、弟は「震洋」の隊員になります。回天は人間魚雷、伏龍は人間機雷、ベニヤ板の小艇に爆弾をつけて敵艦に突っ込む震洋は「自殺ボート」と呼ばれました▼兄の名は岩井忠正さん、弟は岩井忠熊さんです。ふたりは戦時中から日本の戦争目的や天皇制について疑問をもち話しあってきたといいます。それでも大勢に従い、沈黙を通し続けてしまった。それが自分たちにとっての戦争責任だと▼特攻という稀有(けう)な体験を生き延びた両者には戦後、強烈な一致点が生まれます。戦争拒否への信念です。兄は商社員を経て語学を生かし翻訳業へ。弟は「戦争の真実を突きとめる」ために近代史の研究に打ち込みました▼道は違えど、ともに平和運動に尽くし、その一翼を担ってきました。今月、忠熊さんの訃報が伝わりました。101歳。1年前に亡くなった忠正さんは102歳でした▼時の権力にあらがわず、口をつぐんでしまった自責の念は生涯消えませんでした。だからこそ「たとえ、どんな時代であろうとも、どんな環境であろうとも、言うべきことは、はっきり言える人間になってほしい」(『特攻 最後の証言』)。一度は死を覚悟した兄と弟が、若い人たちに訴え続けた思いです。


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