2023年11月8日(水)
主張
賃金を上げる国へ
ゆがみの大本にメス入れよう
国民生活の困難を打開し、日本経済を立て直す上でカギとなるのは、大幅な賃上げです。日本は30年の長期にわたって「賃金が上がらない国」になっています。国民の暮らしより財界の利益を優先する政治のゆがみの結果です。岸田文雄首相は国会や政府のさまざまな会議で「持続的な賃上げ」を強調しますが、賃金が抑え込まれ続けた根本をただす姿勢はありません。賃上げの障害となっている構造にメスを入れ、本気で賃上げを実現する政治に切り替えることが急務です。
人件費に回さず内部留保
厚生労働省の2023年版労働経済白書は、賃上げが主要テーマです。
白書は、他の主要国と日本の賃金動向を比較し、分析しています。実質賃金でみた場合、1996年を100とすると、日本は2021年でも102・4とほぼ横ばいです。一方、イギリスは154・5、アメリカは147・2、フランスは124・8など大きく増加しました。日本が他国と比べて賃金が上がらない国となっている状況を「確認できる」と記しました。
白書は、日本の賃金が伸び悩んだ背景として、他の経済協力開発機構(OECD)諸国と比較し、日本の労働分配率が「大きく低下した」ことを指摘しています。要因の第一に、企業の内部留保を挙げました。「1996年には約150兆円だった内部留保額は、2021年には約500兆円まで増加している」「企業は1996年以降、付加価値が増加する中にあって生じた余剰を、必ずしも人件費や投資に回すのではなく、手元の資産として保有してきたことがうかがえる」としています。内部留保のため込みが労働者を犠牲にしていたことは否定できません。
白書は、結婚と年収の関係についての調査結果を示しました。13年時点に21~25歳だった独身男性で年収200万円未満だと5年後までに結婚した人は約1割でした。一方、同年代で年収300万円以上の独身男性は5年後に3割が結婚しています。26~30歳の独身男性も年収200万円未満では5年後までの結婚は約1割でしたが、年収300万円以上だと約4割となりました。賃金増加は結婚を希望する人を後押しする効果があり、「少子化を克服」する観点からも賃上げが重要としました。
日本経済全体への影響についても、全労働者の賃金1%の増加は、全体の生産額を約0・22%引き上げ、商業やサービスを中心に約16万人分の雇用が増加すると推計しました。
非正規雇用の正規雇用化が労働者に好影響を与えていることや、最低賃金の引き上げの有効性にも触れています。
責任を果たす政治を
白書は、「賃金が上がらない国」にしてきた政治の責任には迫っておらず、根本的な打開策は見えません。最低賃金の時給1500円への引き上げや非正規ワーカーの待遇改善など働き方の改革に責任を果たす政治の実現が必要です。
「労働組合加入率が高いほど、一人当たり賃金が高くなる傾向」「労働者の交渉力の強化と、その帰結としての賃金増加という点から、労働組合の果たす役割は相当大きい」と白書は記述しました。力を合わせて政治を変え、賃金を上げる国にしましょう。








