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2023年10月28日(土)

主張

性別変更司法判断

人権尊重の流れが社会動かす

 自認する性に合わせて戸籍上の性別を変更する際、生殖能力をなくす手術を要件とする性同一性障害特例法(特例法)の規定を巡り、憲法に違反するかどうかが争われた家事審判の特別抗告審で、最高裁大法廷は25日、違憲であり、無効とする決定を出しました。2019年に最高裁第2小法廷は同規定を「現時点では合憲」としていましたが、この4年間の社会情勢の変化を踏まえ、判断を変更しました。人権尊重の流れが、司法と社会を確実に動かしています。

「生殖不能要件」は違憲

 特例法は性別変更にあたり、(1)18歳以上(2)婚姻していない(3)未成年の子がいない(4)生殖腺(精巣や卵巣)がないか、その機能を永続的に欠く(生殖不能要件)(5)変更後の性別の性器に似た外観を備えている(外観要件)―の5要件を定めています。(4)と(5)は「手術要件」と呼ばれます。

 申立人は、戸籍上の性別を出生時の男性から女性に変更することを求めました。手術を受けていませんが、長年のホルモン治療で生殖能力は減退し、生殖の可能性は極めて低く、要件を満たすと主張していました。手術を必須とすることは過度な負担を強い、幸福追求権を定めた憲法13条などに違反すると訴えていました。

 特例法が制定された03年7月当時、「性同一性障害」は国際的にも医学的疾患と理解されていました。性別適合手術は最終段階の治療とされ、自身の身体的特徴に強い不快感や嫌悪感を持つ人は段階的治療の対象でした。

 その後、医学的知見が進み、どのような治療が必要かは患者によって異なるとして段階的治療という考え方はとられなくなりました。19年には、「国際疾病分類」において、性同一性障害は病気や障害ではなく「性の健康に関する状態」に分類され、名称も「性別不合」に変更されました。

 特例法の制定当時は法令上の性別を変更する要件として大多数の国が生殖不能要件を定めていました。しかし、14年に世界保健機関などがこれに反対する共同声明を出し、17年には欧州人権裁判所が人権条約違反との判決を行ったのを受けて、生殖能力の喪失を要件としない国が増え、現在は相当数にのぼっています。

 医学的知見の進展と国際的な人権規範の発展の中で、性自認のありようは、病気や障害として扱う「病理モデル」から、本人の性自認のあり方を重視し尊重する「人権モデル」へと移行しています。今回の決定は、この流れに沿ったものです。

 手術は生命や身体への危険を伴い、不可逆的な結果をもたらします。特例法の要件は、体にメスを入れるか、それとも自認する性で生きられない苦痛や不利益を甘受し続けるかの「過酷な二者択一」を迫るものです。即刻改めなければなりません。

外観要件の見直しも急げ

 違憲決定は重要ですが、外観要件については判断せずに高裁に差し戻し、申立人の性別変更の決定は先送りとなりました。

 しかし、3人の判事が「外観要件も違憲」との反対意見をつけたことは注目されます。外観要件も性別変更のために手術を強いる人権侵害であることに変わりありません。司法の判断を待たず、国会で法改正の議論を急ぐべきです。


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