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2023年10月26日(木)

きょうの潮流

 「世の中に対してテレビが真っ向からものを言う」。先日、亡くなった演出家の鶴橋康夫さんが本紙の取材で語った言葉です▼テレビドラマや後に手がけることになった映画で、その才はいかんなく発揮されました。人間の複雑な内面をきらめくような映像で描き、鋭い目を社会へと向けた数々の作品は忘れがたい▼入社したのは、制作環境が整ったNHKや東京の民放キー局ではなく、大阪の読売テレビでした。浅丘ルリ子と組んだ「かげろうの死」(芸術選奨文部大臣新人賞)、メディアの正体を探る「砦なき者」、政官財の癒着に挑んだ「刑事たちの夏」(ギャラクシー大賞)、警察の暗部や人間の罪を掘り下げた「警官の血」。個性的なドラマが並びます▼“社会の木鐸(ぼくたく)に”の志を掲げて、希望や誇りを仕事に込めました。制作の現場でカメラさんとか照明さんとかと呼んだことはなく、50人ほどのスタッフの名前を「一発で覚えた」といいます。「テレビの仕事は一人ではできない」が信条でした▼2009年から本紙にエッセー「鶴橋康夫のドラマの種」を連載。独特の筆書きの原稿をファクスで届けてくれました。俳優や知人、家族、身辺について、どこまでが事実で、どこからが創作なのか、虚実入り混じった達者な文章が人気でした▼83歳で亡くなるまで、60年近い演出家人生。生涯現役がモットーで、次回作も温めていました。多くの俳優から愛された豪快かつ繊細な人柄。「いつか親父(おやじ)のドラマを作りたい」と願い続けていました。


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