2023年9月27日(水)
主張
国葬強行から1年
違憲の儀式に反省ないままだ
岸田文雄政権は1年前のきょう、安倍晋三元首相の国葬を東京の日本武道館で実施しました。安倍氏の政治を美化・礼賛する儀式を税金で丸抱えする国家行事として強行したことに、批判と抗議の声は大きく広がりました。特定の政治家の死を特別扱いし、国民に弔意を押し付ける国葬は、憲法の保障する「法の下の平等」(14条)や「思想及び良心の自由」(19条)に違反します。法的な根拠もありません。しかし、岸田首相は、民意に逆らい違憲の儀式を行ったことへの反省は皆無です。憲法と民主主義をないがしろにする政治をこのままにはできません。
説明できない岸田政権
いまの日本に国葬を定めた法律はありません。戦前は国葬令があり、天皇や皇族、「国家に偉勲ある者」が対象でした。国葬には、国威発揚の場とされ、国民を侵略戦争に動員する手段にされた歴史があります。戦後、日本国憲法の施行(1947年)とともに国葬令が失効したのは「現行憲法の精神と相いれないような性格を有する」(2017年の内閣法制局見解)とされたからです。
戦後、吉田茂元首相は国葬(1967年)でしたが、根拠となる法律もなく内閣の独断で決めたことを国会で追及されました。75年の佐藤栄作氏の際は国民葬となり、80年の大平正芳氏以降、首相経験者の葬儀は内閣と自民党の合同葬がほとんどでした。
吉田氏を最後に55年間行われてこなかった国葬を安倍氏で復活させたことについて、岸田首相は合理的な説明ができません。安倍氏の首相在任期間が8年8カ月と過去最長だったなどといっても、憲法違反の儀式を正当化することはできません。
岸田首相は「一人ひとりに弔意を強制するものではない」と主張しましたが、中央官庁では職員に黙とうが指示され、ほとんどの都道府県では半旗や弔旗が掲げられました。直接・間接に敬意と弔意が強制された事実は消えません。
岸田首相は昨年9月、国葬実施反対の世論の広がりの中で、国葬の検証を行うと国会で答弁しました。内閣府の国葬事務局は大学教授などからヒアリングを行い、昨年末に論点整理を公表したものの、たなざらしになっています。
政府と別に衆院議院運営委員会は、国葬を検証する各派代表者の協議会を設置しました。年末にまとめられた報告書には「世論の分断が招かれたとの共通認識」などと記されました。しかし、岸田政権には検証結果に向き合う姿勢がありません。複数のメディアは国葬招待者名簿などの公開を請求しましたが、公開された資料は大部分が黒塗りでした。約12億円もの税金を投じながら情報隠しを続けること自体、安倍氏の国葬の道理のなさを示しています。
安倍政治からの決別こそ
岸田首相は国葬の弔辞で、安倍氏の改憲姿勢や安保法制強行などを称賛し、その「土台の上」に自らの政治を推し進めることを誓いました。その言葉の通り、敵基地攻撃能力保有などを盛り込んだ安保3文書に基づき「戦争国家づくり」に突き進んでいます。平和と民主主義に反する政治も安倍政権から継承しています。いま必要なのは、安倍政権の8年8カ月の誤りをただし、日本の進路を危うくする政治と決別することです。