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2023年9月12日(火)

主張

朝鮮人虐殺と政府

「記録がない」は成り立たない

 1923年の関東大震災での朝鮮人虐殺を巡り、松野博一官房長官が「記録が見当たらない」などの発言を記者会見で繰り返しています。震災発生直後から朝鮮人の暴動などのデマが流布され、軍や警察、自警団による集団虐殺があったことを示す公的な記録は数多く存在しています。それを「ない」と否定することは、歴史の歪曲(わいきょく)に他なりません。岸田文雄政権がやるべきことは、罪のない人の命を奪った痛苦の過去を徹底して調査し、結果を公開し、その反省の上にたった謝罪と補償です。

自身の過去の発言と矛盾

 松野氏は2011年7月27日の衆院文部科学委員会で、震災直後に司法省や内務省警保局などが調査した朝鮮人犠牲者数を具体的に示し、「公的な記録によりますと…」「日本国の当局の正式な発表というのは…」と民主党政権の閣僚の認識をただしています。「記録が見当たらない」という松野氏の主張は、同氏の過去の言動に照らしても全く説明がつきません。

 朝鮮人虐殺の事実は、政府の中央防災会議の「災害教訓の継承に関する専門調査会」が09年3月に公表した「1923関東大震災報告書【第2編】」で「震災時には、官憲、被災者や周辺住民による殺傷行為が多数発生した」「虐殺という表現が妥当する例が多かった」「対象となったのは、朝鮮人が最も多かったが、中国人、内地人も少なからず被害にあった」と明確に認定しています。

 松野氏は同報告書の記述は「有識者が執筆したもの」で、政府見解ではない(8月31日の官房長官会見)と言います。極めて無責任で不見識な発言です。中央防災会議は首相が会長を務め全閣僚らで構成する国の重要な会議の一つです。専門調査会は同会議の決定なしに設けられません。

 災害教訓の継承に関する専門調査会は03年に小泉純一郎首相が出席した会議で決まりました。関東大震災をはじめ過去の大規模災害の経験と知恵を「的確に継承」し「将来の災害対応に資する」ことが設置目的でした。報告書は国や地方自治体に配布し、義務教育から生涯教育まであらゆる機会に活用することをうたっています。

 関東大震災報告書【第2編】は09年4月21日、麻生太郎首相が出席した中央防災会議で報告されました。会議で配布された同報告書概要には「朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた」「軍隊や警察も流言に巻き込まれ、また増幅した」と明記されました。報告書は「当時の公的機関が作成した記録に依拠した」とし、警視庁資料など多くの出典を列挙しています。それでも「記録が見当たらない」と言い張るのか。松野氏は発言を撤回すべきです。

歴史の事実を消し去るな

 報告書【第2編】は関東大震災の虐殺について「これほどの規模で人為的な殺傷行為を誘発した例は日本の災害史上、他に確認できず、大規模災害時に発生した最悪の事態として、今後の防災活動においても念頭に置く必要がある」「過去の反省と民族差別の解消の努力が必要なのは改めて確認しておく」と記しました。少数者へのヘイトスピーチが絶えない今こそ教訓化が必要な指摘です。史実を消し去ることは許されません。


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