2023年8月27日(日)
主張
国土形成の新計画
危機を加速させた大本ただせ
岸田文雄政権が新しい国土形成計画(新計画)を閣議決定(7月28日)しました。2050年を見据え、今後10年間の総合的長期的な「国土づくりの方向性」を定めたといいます。新計画は、人口減少、巨大災害、気候変動などリスクの高まり、コロナ禍を経た暮らしや働き方の変化などを挙げ、危機や変化に対応する「将来ビジョンが必要」と述べました。そこで打ち出した「目指す国土の姿」の柱は、大都市圏を中心にした国際競争力強化など従来型の構想です。都市部を過密化させ、地域を衰退させた巨大開発優先政策の踏襲では未来は開けません。
リニア推進を改めて強調
国土形成計画の策定は15年以来8年ぶりです。新計画は(1)活力ある国土(2)災害などに対応する安全・安心な国土(3)個性豊かな国土―を目指すなどとしています。
しかし、「東京一極集中」を加速したことをはじめ地方の人口流出を引き起こし、国土を脆弱(ぜいじゃく)にしてきたこれまでの政策への反省はありません。
新計画では、リニア中央新幹線を「国土構造の大きな変革をもたらす国家的見地に立ったプロジェクト」と改めて明記しました。東京―名古屋間、名古屋―大阪間の段階的開業に向けて建設主体のJR東海による整備が着実に進められるよう、国や自治体が連携・協力するとしています。
リニアとともに、新東名と新名神の高速道路や、羽田など主要国際空港と併せ「三大都市圏を結ぶ『日本中央回廊』」を形成し、「世界からヒト・モノ・カネ・情報」を引きつけて「国際競争力強化につなげる」などとうたいます。
15年の国土形成計画ではリニアによって「世界を先導するスーパー・メガリージョン(超巨大都市圏)」を形成する構想を掲げていました。新計画は、その焼き直しの性格が濃厚です。リニア中央新幹線は、自然や住環境の破壊などが批判されている上、巨額な資金を投じても採算が取れない危険が指摘されており、計画自体の是非が大本から問われています。
東京をはじめ三大都市圏へ地方から人の流れが増えることになれば、人口集中・過密化に拍車がかかり、無秩序・無計画な都市づくりが激しくなる恐れもあります。リニアを軸にした国土づくりでは、新計画が問題視している「東京一極集中の弊害」の解消につなげることも不可能です。
新計画では「地域交通体系の構築」も盛り込みましたが、各地で議論になっている赤字ローカル線を国の責任で存続させる姿勢が欠けています。先の国会ではローカル線の存廃を地域で協議する場を設ける法律が成立しました。負担増か廃線かを自治体・住民に迫る結果を招きかねない動きです。地域を再生させるためにも、国は全国の鉄道網を守り抜くために役割を果たすべきです。
地域住民が主役になって
新計画は「グリーン国土の創造」などとして自然環境の保護や再生可能エネルギーの普及にも触れますが、原発の活用には固執しています。「美しく暮らしやすい農山漁村の形成」と言うものの、農山村を荒廃させている農政の抜本的転換の姿勢はありません。
住民の暮らし置き去りの計画でなく、地域に根差した住民主体の国土づくりこそが必要です。








