2023年8月10日(木)
主張
「金融教育」法案
公的な場を投資誘導に使うな
岸田文雄政権が「家計の貯蓄を投資に誘導する」政策を推進しています。昨年11月には「資産所得倍増プラン」を公表し、投資を倍増して家計の金融資産所得を増やす方針を打ち出しました。「プラン」に沿って先の通常国会で、少額投資非課税制度(NISA)拡充の法律が成立しました。
金融経済教育を国民的規模で推進する法案も衆院で可決され、参院で継続審議となりました。ビジネス拡大を狙う金融業界が政府に法制化を働きかけていたものです。公教育を投資拡大促進に利用することは問題です。
官民一体でプラス面強調
法案は、(1)金融経済教育を進める方針を国が策定する(2)実施機関として金融庁が所管する「金融経済教育推進機構」を創設する―ことが主な内容です。
原案となったのが、日本証券業協会が昨年7月に公表した「資産所得倍増プランへの提言」です。「1億総投資家」を目指すとして、「NISA等を活用した実践的な投資教育に関する基本方針(国家戦略)」を法制化すること、金融庁所管で「投資教育を実施する公的機関」を創設することを岸田政権に求めました。法案は、この「提言」を丸のみしたと言っても過言ではありません。
近年、金融業界は学校や社会人向けの金融経済教育に力を入れてきました。インターネット教材・資料の作成、講師派遣など活発に取り組んでいます。昨年4月から高校家庭科で投資を学ぶ授業が始まり、業界の関与が強まっています。
法案はこの流れを投資推進の方向で強化し、官民一体の体制をつくる狙いがあります。
法案に基づく金融経済教育について、投資詐欺などの被害に取り組んできた弁護士から「投資のプラス面ばかりが強調され、身の丈に合わない投資や投資詐欺が増大するのではないか」と懸念する声が上がっています。
消費者教育の専門家からも、法案によって本来の金融経済教育がゆがめられることを危惧する意見が表明されています。
金融経済教育は、以前から消費者教育推進法に基づく消費者教育として、消費者庁と文部科学省の所管の下に進められてきました。
消費者の利益擁護や自立支援(同法第1条)を目的として、借り入れの仕方などの家計管理、ライフプランに基づく生活設計、金融被害防止などの教育が取り組まれてきました。
教育という公的な場を投資勧誘ビジネスに利用することは許されません。
資産所得倍増と切り離せ
政府も答弁では「金融経済教育は投資の推奨ではない」としています。そうであるならば、金融経済教育を「資産所得倍増プラン」と切り離さなければなりません。
日本共産党の田村貴昭議員は、6月7日の衆院財務金融委員会で「『貯蓄から投資』方針を公教育に持ち込むべきではない」と批判し、金融業を重要産業として育成する方針を掲げる金融庁が金融経済教育を主導すべきでないと批判しました。
巨額の借金をさせて投資させるなどの深刻な投資詐欺が急増しています。業界利益優先ではなく、国民の立場に立った金融経済教育の確立が求められています。








