2023年7月25日(火)
主張
観光政策のあり方
地域の環境守り魅力の発揮を
独立行政法人・日本政府観光局は19日、今年上半期(1~6月)の訪日客が約1071万人(推計値)だったと発表しました。新型コロナ感染拡大前の2019年同期比で64・4%まで戻りました。政府の観光白書(6月13日公表)は、観光需要は回復傾向と述べ、観光地や観光産業の「稼ぐ力」を強調しています。観光客が過剰に集中するオーバーツーリズム(観光公害)が各地で大きな問題になる中、コロナ禍の教訓は生かされているのか。住民の暮らしや自然・住生活環境が守られ、地域の活性化に寄与しているのか。観光政策のあり方が問われます。
外国人富裕層向けを強化
観光白書は、「早期の訪日外国人旅行消費額5兆円の達成」などもうたいます。「5兆円達成」は、岸田文雄政権が3月に決めた観光立国推進基本計画に盛り込んだ「インバウンド回復戦略」の目標の一つです。基本計画は、目標達成に向け「関係省庁の施策を総動員して集中的な取組を実施」するとし、25年の大阪・関西万博をはじめ大型イベントを「戦略的に活用していく」ことなどを掲げます。
17年に安倍晋三政権が策定した観光立国政策は、観光をもっぱらビジネスとして位置付け、規模拡大を至上命令にしていました。岸田政権も基本的に同じ立場です。受け入れ規模の拡大ばかりを追求した安倍政権以来の観光政策はコロナ禍で行き詰まったにもかかわらず、そのことへの根本的な反省は示されません。
岸田政権は「消費額」を重視する姿勢を強めています。国土交通省・観光庁の検討委員会は21年、「日本はインバウンド富裕旅行の受け入れに舵(かじ)を切るべきだ」と記した報告書をまとめました。高級な宿泊施設、高価な食材による料理などが推奨され、富裕層向けの観光の推進を強調しています。
京都市では小学校跡地などに超高級ホテルの立地が進められ、地元では問題視する声が上がっています。多くの人が手の届かない一部富裕層ばかりをターゲットにした政策では、日本の魅力を発信する観光にはなりません。
一方、受け入れ能力をはるかに超える観光客が殺到し、住民生活などに重大な支障をきたすオーバーツーリズムの解消も急務です。夏の行楽シーズンで国内旅行者の増加も重なり、問題が深刻化している地域も少なくありません。移動手段の分散化、ごみの持ち帰り呼びかけなど各地で取り組みが続きます。しかし、地域任せでは限界があります。国が責任を持った対応が必要です。
日本各地には世界的にも重要な歴史的遺産、美しい自然景観、日本独特の食材を使った料理のもてなしなど地域に根差した観光の財産が無数にあります。地域住民が主役となってそれを生かし、地域産業のうるおいに貢献できるようにしなければなりません。
住んでよし訪れてよしで
06年制定の観光立国推進基本法は、住民が誇りと愛着を持てる持続可能な観光を掲げ、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」が重要だとしています。この理念に立ち返ることが求められます。
自由に時間が使え、余裕ある暮らしができる人が増えてこそ観光は発展します。「8時間働けば誰でも普通に暮らせる社会」の実現がその土台です。








