2023年7月18日(火)
きょうの潮流
第169回芥川賞があす発表されます。事前に候補作を一気読みして受賞作を予想するのが、恒例の楽しみになりました。今回の5作も現代の重い課題を突き付けます▼己の浅はかさを痛感させられたのが市川沙央『ハンチバック』(「せむし」の意)。先天性の筋疾患を持ち人工呼吸器と電動車椅子を使って生活する著者が、生きるほどに壊れていく身体を活写し、健常者の無知と傲慢(ごうまん)を暴きます▼児童ポルノの社会的要因を告発したのは児玉雨子『##NAME(ネイム)##』。小学生時代にジュニアアイドルの活動をしていた主人公は、自身が性的搾取の被害者だったことに気づきます。性的対象物として消費された日々、自分を取り戻す祈りのような呼び名がありました▼千葉雅也『エレクトリック』は、阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件の起きた1995年の地方都市を舞台に、同性への性的指向を自覚する少年の精神の彷徨(ほうこう)を描きます▼石田夏穂『我が手の太陽』は熟練の溶接工が主人公。熱炎に魅入られ、肉体労働者とさげすまれても仕事が自分の価値そのもの。しかし腕が鈍り始め、人間の誇りも存在意義も崩れていって…▼乗代(のりしろ)雄介『それは誠』は、複雑な家庭で育った高校生の僕が、生き別れのおじさんに会うため同級生たちの協力を得てある計画を実行する冒険物語。人の悲しみを思いやる気持ちの宝石のような美しさを見せてくれました。受賞作に限らず、自分にとっての大切な一冊が見つかるかもしれません。読んでみませんか。








