2023年7月17日(月)
きょうの潮流
空があって、山や川があって、森や花々があって、その風景にとけこむ人びとのくらしがある。ときには鳥が空から見下ろすように、あるいは虫が間近で観察するような世界が広がります▼北海道から沖縄まで全国をめぐり、失われゆく「ふるさと」を描いた原田泰治さん。昨年3月に81歳で亡くなりましたが、その名を冠した長野・諏訪市の美術館でいま追悼展が催されています。開館25周年をむかえ、1周年記念に開催した「鳥の目・虫の目 日本の旅」を復刻しました▼原田さんは生後すぐに小児まひにかかり両足が不自由に。それが鳥の目と虫の目をもつことにつながったといいます。同じ作風で映しとってきた自然の美しさやそこに生きる人たちの姿。ひたすら一本の道を歩みつづけた画家でした▼今年5月にはしのぶ会も開かれ、足跡や叙情ゆたかな作品に改めて光が当てられています。それぞれの思い出や懐かしい情景とともに▼戦争や環境破壊、気候危機。人間の手によって様変わりしていく「ふるさと」。原田さんの絵からは原風景やみずからの原点に立ち返ることの大切さが伝わります。「日本のよき部分を未来の子どもたちへのお土産として描き残しておきたい」と▼彼の作品には、もう一つの特徴があります。それは温かみを感じさせるほおの赤みこそあれ、人の顔に目や鼻、口が描かれていないこと。その理由は、見る人が心の目で自由に想像してほしいとの思いから。人びとが心のなかで描く、あるべき風景を信じて。








