2023年7月11日(火)
主張
60メートルの超低空飛行
「抑止力」口実に何でもありか
日米両政府は、米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが日本本土の山岳地帯で低空飛行訓練を行う際の最低高度を現行の500フィート(約150メートル)から200フィート(約60メートル)に引き下げることで合意しました。従来の日米合意は、人口密集地以外の地域で「最低安全高度」を150メートルとする日本の航空法に準じ、500フィート以上としてきました。今回の合意は、国内法が定める安全基準さえあからさまに無視し、無法で危険な低空飛行訓練を認めるものです。岸田文雄政権の類を見ない極めて異常な対米従属姿勢を示しています。
米軍は国内法の外に
7日に日米両政府でつくる日米合同委員会で合意しました。同委員会は、在日米軍に治外法権的な特権を与えている日米地位協定の実施に関する協議機関(日本側代表=外務省北米局長、米側代表=在日米軍副司令官)です。
主な合意内容は、オスプレイが沖縄県を除く日本国内の住宅地などの上空を避けた山岳地帯の「訓練航法経路」で地上から高度500フィート未満200フィートまでの飛行訓練を行うというものです。10日から有効になりました。合意文書には訓練航法経路を示す別図があることが記載されていますが、非公表とされています。
防衛省は、今回の合意に基づく訓練は、人員・物資の輸送に当たり敵のレーダーからの捕捉や対空火器からの攻撃を回避したり、緊急事態で捜索・救難活動を行ったりするために「必要不可欠」で「在日米軍の即応性を維持・向上することで、日米同盟の抑止力・対処力を強化する」としています。
日本の航空法は、航空機の最低安全高度以下の飛行を禁止しています。最低安全高度は同法施行規則で人口・家屋密集地域で周囲の最も高い障害物から300メートル、それ以外の地域で地上から150メートルと定めています。しかし、この規定は、日米地位協定に基づく航空法の特例法で米軍には適用されないことになっています。実際、米軍機の最低安全高度以下の低空飛行が各地で確認されてきました。
これに対し日米両政府は、在日米軍の低空飛行訓練は日本の航空法と同じ高度規制を適用しているとしてきました(1999年の合意)。オスプレイを米海兵隊普天間基地(沖縄県)に初配備した際も、同機の低空飛行訓練は人口密集地域などの上空を避け、地上から500フィート以上の高度で行うとしていました(2012年の合意)。
22年に日米共同訓練にあわせ低空飛行訓練をするオスプレイの最低高度を300フィート(約90メートル)に下げましたが、同年9月から10月までの一時的な措置でした。ところが今回は恒常的に適用されます。
国会に諮らず密室で
日本の国内法を公然と踏みにじる主権放棄の植民地的合意が、「日米同盟の抑止力強化」を口実に、国会にも諮らず、日米合同委員会という密室の協議で決められたことは極めて重大です。
今回の合意は、中国との戦争を想定した米海兵隊の「遠征前進基地作戦」(EABO)を踏まえたものとみられます。同作戦は、日本の南西諸島やフィリピンなどの島々に前進拠点を構築し中国軍を攻撃する構想です。米国の対中国軍事戦略に追随し、日本の平和や国民の安全を危険にさらすことは決して許されません。








