2023年7月3日(月)
主張
ウィシュマさん事件
映像記録と資料 全て公開せよ
名古屋出入国管理局でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが収容中に飢餓状態で死亡した2021年3月の事件で、遺族が国を相手に損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が6月21日に開かれ、死亡前の状況を撮影した映像記録の一部が上映されました。この訴訟で法廷での映像公開は初めてです。適切な医療を受けることができないままウィシュマさんが亡くなったことが裁判でも明らかになりました。真相を究明し、命と尊厳を軽視した入管行政の根本的な転換を図ることが必要です。
入管の最終報告書に虚偽
入管庁は21年8月にウィシュマさん事件の最終報告書を公表しました。しかし、死因は特定せず、対応を正当化しました。入管庁には死亡までの2週間を監視カメラで撮った約295時間分の映像があります。そのうちの約6時間半と約26分の限られた二つの映像のみを国会議員は視聴しました。短い時間の内容を見ただけでも、最終報告書には映像と異なる記述があることが確認されています。
先の通常国会で成立した改悪入管法の審議では、死亡(3月6日)の3日前に看護師が話していたことが、ウィシュマさんが話したかのように報告書に記されていた食い違いが問題になりました。斎藤健法相は、報告書の主眼はウィシュマさんが訴えていた症状などを明らかにすることで、看護師が面談で指摘しウィシュマさんが肯定したものを一括して記載したと説明しました。入管庁が勝手に事実をゆがめて報告書をまとめたことを認めたのも同然です。虚偽の報告書による隠蔽(いんぺい)は許されません。
映像記録では、ウィシュマさんの命を救える機会が何度もあったことが分かりました。死亡する2週間前から、足はほとんど動かず、入院や点滴が必要な状態でした。ウィシュマさんが「病院へ行きたい、お願い」と苦しげに声を出す日々が続き、死亡した朝は、職員が声をかけても何も反応していませんでした。救急車を呼び、医療を施していれば命が失われなかった可能性は十分にありました。入管庁の責任は極めて重大です。
入管法改悪案の審議中、大阪入管の常勤医師が酒に酔った状態で収容者を診察していた問題が浮上しました。斎藤法相は、その事実を隠し、診療から外してからも大阪入管には常勤医師がいると偽装する資料を出していました。入管庁がウィシュマさん事件の教訓を真摯(しんし)に受け止めていないことのあらわれにほかなりません。
今求められているのは、全ての映像記録と資料を公開し、第三者の検証委員会で死因の特定と真相の究明を行うことです。斎藤法相は、全資料を開示することについて、保安上の支障があり、ウィシュマさんの名誉と尊厳にもかかわるなどとして困難だと主張します。ウィシュマさんの命の尊厳を奪った入管庁や政府が口にしていい言葉ではありません。真実を闇に葬る姿勢こそ最悪の対応です。
改悪法の施行を止めよう
裁判でウィシュマさん死亡事件の真実を明らかにし、国の責任を認めさせるとともに、国会での徹底審議を通じ、入管行政をたださなければなりません。1年後の改悪入管法の施行を阻止し、入管行政と難民認定審査を大本から改める野党案の実現へ、運動を大きく広げましょう。








