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2023年6月11日(日)

刑法等改正案 意義と課題 本村伸子衆院議員に聞く

「不同意性交等罪」創設は重要な前進

 「不同意性交等罪」を創設する刑法等改正案が先月末、全会一致で衆院を通過し、9日、参院審議入りしました。衆院法務委員会で質疑に立ち修正案を提出した日本共産党の本村伸子議員に今回の改正案の意義と課題を聞きました。(藤原直)


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(写真)刑法等改正案について語る本村伸子議員=衆院第1議員会館内(白石光撮影)

改正へと動かした性暴力根絶の世論

 ―改正案をどのように評価していますか。

 これまでの日本の刑法の性犯罪規定では、同意のない性的行為でも、「暴行・脅迫」がなければ強制性交等罪が成立せず犯罪としての成立が困難な場合があることが、長年、深刻な課題として社会に問われてきました。今回の改正案で、被害当事者が刑事法検討会や法制審議会の部会に入り、暴行・脅迫要件を見直し、同意をしないことを要件の中核とする「不同意性交等罪」が創設されることとなったのは、重要な前進です。

 振り返れば、2019年3月、名古屋地方裁判所岡崎支部の判決は、父親による性交に娘が不同意だったこと、過去に抵抗して暴力をふるわれたこと、経済的支配が強まっていたことを認定する一方、「抗拒不能」(被害者の抵抗が著しく困難な状態)ではなかったとして父親を無罪にしました。この月に相次いだ4件の無罪判決が衝撃を広げ、性暴力根絶と同意のない性的行為の処罰を求めるフラワーデモが広がりました。

 今回の改正案ができたのは、被害当事者・支援者団体の「Spring」の皆さんなど当事者や、弁護士、研究者、支援者の方々が本当に必死に声をあげて、さまざまな働きかけをしていただいて、また、それに応える世論の力もあってのことだと認識しています。

 また、今回の改正案で、性犯罪の公訴時効期間が延長されたことや、配偶者間でも強制性交等罪が成立すると明確になったこと、性的部位や下着などを撮影する性的姿態撮影罪や、わいせつ目的で16歳未満を懐柔する行為を罰する規定が新設されたのも前向きな変化です。

公訴時効延長でも切り捨ての恐れも

 ―ただ、この法案にはいまだ足らざる点も多々あると言われています。共産党は修正案を提出しましたが、具体的にはどういった課題があるのでしょうか。

 例えば今回の公訴時効の延長は不十分ではないかといった点が審議でも明らかになりました。斎藤健法相は、内閣府の調査では性被害を相談するまでにかかった期間が5年以内だった人が大半だったと理由を述べましたが、同調査ではそもそも相談もできなかった人たちが6割とされています。そういう人たちをなぜ切り捨てたのでしょうか。また、「Spring」の調査では、挿入を伴う性被害を認識するまでに「26年以上かかった」は35件、「31年以上かかった」は19件ありました。なぜ幼少期から性虐待を受けてきた被害当事者の方々の実態の調査をしてこなかったのかが問われています。

 改正案の規定では、12歳時の不同意性交等の被害であれば、公訴時効の完成は33歳時となりますが、参考人質疑でも、法制審部会委員からせめて30代はカバーしてほしいとの声があがっていたことが紹介されています。修正案では公訴時効のさらなる延長・撤廃の検討を求めました。

 本法案では、加害者が、「地位に基づく影響力」で被害者に「不利益の憂慮」をさせ、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うするのを困難な状態にさせるなどして、性行為をすることも処罰対象にしました。加害者が「相手が憂慮しているとは知らなかった」と言った場合について、私は質疑で条文の解釈を確認し、適切な処罰を行うよう求めましたが、今後は、より明確な、地位に基づく影響力に乗じた性交等への処罰規定の創設を検討すべきです。

 また一定の年齢未満の若年者への性行為を同意の有無にかかわらず処罰対象とする「性交同意年齢」を現行の13歳から16歳に引き上げるのは前進ですが、中学生年齢の13~15歳の場合は、5歳以上の年齢差がある相手を処罰対象としています。これに対しては参考人からも「18歳以上の成人から中学生への性的行為は処罰の対象とすべきではないか」「中学生ぐらいは無条件で守ろう」との声が出ています。私も見直しを求めました。

被害者守り尊厳を保障する法整備へ

 ―性的同意とは何かということが改めて問われているように思います。

 同意とは、年齢や経験などに基づいて何がなされているかを理解していること、性行為をした場合に起こり得る結果と行わない選択肢もあると知っていること、性行為に賛成または反対する選択肢が平等に尊重されていることといった条件を満たすものであるべきです。

 今回の改正案の処罰規定は、いわゆる「ノー・ミーンズ・ノー(嫌は嫌だ)」型ともまだ完全には言えない段階ですが、今後はいわゆる「イエス・ミーンズ・イエス」型すなわち、行為者が相手の自発的参加を確認しない性行為を処罰対象とするべきではないかと思います。

 スウェーデンでは、性行為は自発的なものであるべきという考えに基づき、「イエス・ミーンズ・イエス」つまり明確に示された時のみ同意があったととらえ、それ以外は「ノー」ととらえる刑法を整備しています。また、相手が自発的に性行為に及んでいない可能性を知りながら性行為をした場合など「過失」による性犯罪も新たに加えています。

 明確な「同意」がなく性行為をした場合は違法となり得るというこの法律は、社会が性犯罪と対決し、被害者の苦しみにも真剣に取り組んでいるという重要なメッセージを送っています。

 また、スウェーデンの刑法の保護対象は、「心身の統合体としての人間の尊厳」だと考えられていると言われています。日本国憲法13条が掲げる「個人の尊厳」と同じ考え方です。

 被害者を守り、「人間の尊厳」を保障する法律へと改正を進めることは、声をあげ続けてきた多くの人たちの悲願です。いっそうの法整備の前進へと力を合わせていきたいと思います。

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