2023年6月11日(日)
きょうの潮流
昔から「複眼」という言葉をよく耳にしました。複眼のすすめとか、複眼的思考とか。いろいろな立場や角度からものごとを見て考える大事さを説いた本もありました▼「単一のせまい範囲内に限定されたものの考えかたや価値観を越えて、もっと広い視野で自分や世界を多元的にとらえる能力」。以前、作家の片岡義男さんは「複眼とはなにか」にそうつづっていました▼歴史や世界をとらえるときに欠かせない複眼。それは日常の出来事にも必要ではないか。公開中の映画「怪物」はそんなことを問いかけてきます。小学校で起きたトラブルをシングルマザーや教師、子どもたちの視点から描いていきます▼見えない怪物というものを、映画を見た人たちがどこに見つけていくのか。是枝裕和監督は、言葉にできないことについての映画なので、簡単に言葉にできないという感想が一番うれしいと話しています▼複雑な社会のありようや人間の内面を映し出してきた是枝監督。ものごとを単純化する傾向にある今のメディアに苦言を呈しています。「本来は事件や事故が起きたときに、どういう社会的な背景があるのか考えていくのが報道の役割だと思うんですが、社会的制裁をメディアが一緒になって加えていく」状況が一般的になってしまったと▼自分にとっての正しさや価値観が他者への押しつけになってはいないか。人間同士が理解するためにはどうすればいいのか。複眼がいっそう求められる時代の中にあって考えさせられる作品です。








