2023年5月21日(日)
どこが「核なき世界」なのか
「広島出身の首相」名乗る資格はない
「核兵器のない世界」は「究極の目標」―。多くの市民が原子爆弾に焼き尽くされ人間性を奪われた被爆地広島で、主要7カ国(G7)首脳は核廃絶への意志と責任を事実上放棄しました。議長である岸田文雄首相は18日の日米首脳会談で、いざとなれば核兵器を使用する「核抑止」を正当化するにとどまらず、その一層の強化まで確認。「広島開催」をアピールに利用し、自らの核抑止依存を覆い隠す姿勢は決して許されません。
核の増強を促す
昨年8月、ロシアを含めたすべての核兵器保有国が賛成した核不拡散条約(NPT)再検討会議の最終文書案には、NPT第6条の「核兵器の全廃を達成する明確な約束」の履行が盛り込まれています。この点について、19日に発表された「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」は、6条の義務を果たすようロシア・中国に求めましたが、同じ核保有国であるG7メンバーの米英仏については一切言及していません。しかも、「われわれ(G7)」の側の核兵器は「防衛目的のために役割を果たす」として正当化しています。
こんな姿勢では、ロシアや中国、さらに北朝鮮やイランなどが核兵器の放棄に応じるどころか、さらなる核の増強を促すことは目に見えています。
核兵器を全面的に禁止する核兵器禁止条約への言及もありませんでした。広島ビジョン発表に先立ち19日に行われた被爆者らの記者会見で、涙を浮かべながら核廃絶の緊急性を訴えた被爆2世の中谷悦子さんは、G7成果文書が核兵器禁止条約に触れないなら国民の理解は得られないと指摘。「(国民の願いが)裏切られたら首脳への批判が巻き上がる」と語りました。
世界中の人失望
「被爆の実相を伝える」として、19日に行われたG7首脳らによる原爆資料館への訪問も、詳細なやりとりが一切明らかにされず、対話した被爆者も1人だけでした。同日の記者会見で、「今日の雨は涙の雨だ」と表現した広島被爆者団体連絡会議の田中聰司さん。「(G7首脳は)資料館でどんな写真を見て、何を思ったのかも一切明らかにされない。1人ではなく何人かの被爆者と対面し、被爆体験とともに被爆者が今どう考えているかしっかり聞くことを期待していた」と落胆の声をもらしました。
「核には核を」の体制に固執する岸田首相―。核廃絶を現実のものにと願う世界中の人々の失望は避けられません。もはや「広島出身の首相」を名乗る資格はありません。
(石橋さくら)