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2023年5月16日(火)

ジャニーズ前社長性加害

告発次々 真摯に究明を

 男性タレントが多く所属する大手芸能プロダクションの「ジャニーズ事務所」。その創業者のジャニー喜多川前社長(2019年死去)から事務所所属の少年らへ性加害が行われていたという証言が相次いでいた問題で、同事務所は14日、藤島ジュリー景子社長の「(被害者に)深くおわび申しあげます」とするおわびと見解を公開しました。児童への性虐待など多くの問題をはらんだ一連の事態の、真摯(しんし)な真相究明が求められます。(北野ひろみ)


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(写真)ジャニーズ事務所が入るビル=東京都港区

 告発が続くきっかけとなったのはイギリスの公共放送BBCが3月に放送した、ドキュメンタリー番組「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」です。

 番組は、ジャニー氏の長年にわたる性加害の実態を検証。元メンバーがジャニー氏から受けた体験を語るとともに、当事者が少年時代の体験を被害と認識できず、ジャニー氏に対し「感謝している」「今でも大好き」と語る様子を描きました。

メディア鈍く

 番組はその発言を「グルーミング(おとながわいせつ行為の目的を隠して子どもに近づき手なずける懐柔行為)」によるものだと指摘。同時に、1999年に『週刊文春』がジャニー氏の性加害の実態を報じても、他の大手メディアは取り上げず、日本社会ではその事実が“うわさ話”程度の認識とされてきたと指摘しました。放送後には『週刊文春』でも、所属していた男性らがジャニー氏の性加害を次つぎと訴えています。

 ジャニー氏とジャニーズ事務所は99年、「所属の少年にセクハラ行為をした」と報じた『週刊文春』を名誉毀損(きそん)で提訴しました。しかし、2003年、東京高裁は控訴審で「少年たちの証言は具体的で信用できる」として、ジャニー氏の「セクハラ行為」(性加害)を事実認定。賠償を命じた一審判決を変更し、賠償額を減額。04年に最高裁が上告を棄却し、判決が確定しました。裁判ではジャニー氏自身も少年らの証言を一部認めていました。ところが今年4月に日本外国特派員協会でジャニー氏から性加害を受けたとして会見した男性の証言で、裁判以降もジャニー氏による少年らへの同様の行為が続いていたことが明らかになりました。

大きな影響力

 ジャニー氏の性加害が大きく報じられることがなかった背景には、ジャニー氏と同事務所の芸能界への影響力が大きいことがあるとの指摘があります。

 ジャニーズ事務所は、1964年にグループ「ジャニーズ」のデビュー以降、多数の人気男性アイドルを輩出してきました。ジャニー氏自身も、「最も多くのチャート1位を獲得した歌手をプロデュースした人物」としてギネスに認定されるなど、事務所とともに日本の芸能界の中で多大な影響力を誇ってきました。

 2019年には、ジャニーズ事務所を辞めた元SMAPのメンバー3人を出演させないよう事務所がテレビ局に「圧力」をかけた疑いが発覚。優越的な地位を不当に利用し自由な競争を制限する「不公正な取引方法」などを禁じた独占禁止法違反につながるとして、公取委が事務所を「注意」しました。独占禁止法の「注意」は、独占禁止法違反につながる行為がみられたときに、違反の未然防止を図る観点からとられる措置です。

芸能現場の労働安全守れ

自身も芸能界での性暴力を告発した俳優 石川優実さん

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(写真)撮影・野間あきら

 BBCの番組が出たあと、日本の他のメディアが続かなかったことには驚きました。なんとなくうわさされていた、ジャニーズ事務所とメディアとの依存関係を堂々と見せつけられた感じです。

 事務所が事実を知らなかったはずがなく、働く場所として労働環境の安全を守ることを怠ってきたということです。「芸能界だから」という特別な見方ではなく、一つの労働の場としてきちんと対応するべきです。

 ジャニーズ事務所に限らず、芸能界にまん延してきた性暴力や性接待の問題はこれまで黙殺されてきました。

 そもそも社会全体に「芸能界ってそういうところ」という思いがあるのではないでしょうか。別の職場であれば、「それは性暴力だ」となるところを、“芸能界の話”と一線を引かれているように、自分のときにも感じました。一種の職業差別だと思っています。

 事実がわからないままでは先に進めません。性被害を語るか語らないかを決めるのはもちろん本人ですが、せめて今被害を告発している人たちのことに関しては、第三者が調査して、事実関係を明らかにできる機関をつくることが必要です。

「応援するため」声上げる

ファン有志

 ファン有志で「PENLIGHT(ペンライト) ジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」を立ち上げ、「ジャニーズ事務所に性加害の検証と謝罪を求めます」とした1万6千人分の署名を提出した高田あすみさん(仮名)は本紙の取材に対し、「被害者が顔と名前を公表して声をあげたのに、社会がそれに応えないということに、すごく恐ろしさを感じた」と話します。「声をあげる必要があるんじゃないか」と友人らと相談し、署名を始めました。

 当初は、「応援しているタレントに迷惑がかかるんじゃないか」と葛藤があったと言います。「でも、それが性暴力を見過ごしていい理由にはならない。応援していくためにも声をあげなきゃいけないと思ったんです」

 同会のSNSでは、「毎日メンバーの笑顔に励まされているのに…辛(つら)い目にあっていないか複雑」「ずっと性犯罪の片棒を担がされていたように感じ…CDやDVDが穢(けが)らわしいもののように思えてしまう」などファンの声を紹介しています。

社長が「おわび」 加害は「知らず」

ファン「実態調査不十分」

 性加害の告発をめぐって、事務所と藤島社長が公式に見解を発表したのは今回が初めてです。

 公式サイトで藤島ジュリー景子社長が「被害を訴えられている方々に深く、深くおわび申し上げます」と頭を下げる動画を公開し、メディアなどから寄せられた質問には文書で回答しました。

 告発について「問題がなかったとは一切思っておりません。そのような行為自体は決して許されることではない」としたものの、ジャニー氏が故人であることを理由に告発内容は「『事実』と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではない」として“理解”を求めました。また、事務所も藤島社長も性加害は「知りませんでした」とコメント。被害者に対しては第三者委員会ではなく、外部の相談窓口を設置するとしました。

 これを受け、事務所に誠実な対応を求めて署名を提出したファン有志の「ペンライト」は15日、見解を発表。被害者への謝罪は評価したうえで「相談窓口を設置するのみでは実態調査は不十分」と指摘。「今回のおわびを出発点として、性暴力が放置されてきた原因を事務所の責任で明らかにしていくこと」を求めました。

ジャニー氏性暴力疑惑をめぐる経過

3月7日 イギリスBBCがドキュメンタリー番組を放送(日本でも18、19日にCS等で放送)

  23日 以降、『週刊文春』で複数の男性がジャニー氏による性被害を告発

4月12日 元メンバーの男性が日本外国特派員協会で会見。実名と顔を公表し性被害を告発

  13日 NHKが「元ジャニーズの男性『ジャニー喜多川さんから性的行為』」として先の会見を報道。民放、新聞各紙もとりあげる

ジャニーズ事務所はメディアの取材に対し「コンプライアンス順守の徹底、ガバナンス体制の強化等へ取り組みを強める」とコメント

  19日 ファン有志が署名を開始

  21日 ジャニーズ事務所が、現社長の藤島ジュリー氏名で、取引先企業など「関係者各位」にあてて、「多大なご心配とご迷惑をおかけしておりますことを心よりおわび申し上げます」「私たちは本件につき、問題がなかったなどと考えているわけではございません」とする文書を出していたと報道。性暴力や被害者へのコメントはなし

5月11日 ファン有志が署名を事務所に提出したと会見

  14日 藤島社長がおわびと見解を公表


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