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2023年5月9日(火)

主張

「黒い雨」2次訴訟

国は全面解決に背を向けるな

 原爆投下直後に降った「黒い雨」に遭ったのに、被爆者と認定されない広島県内の23人が4月28日、県と広島市に被爆者健康手帳の交付を求める第2次訴訟を広島地裁に起こしました。「黒い雨」被害の第1次訴訟では2021年、広島高裁が幅広く被爆者と認めることを国に求める原告勝訴の判決を言い渡しました。国は上告を断念し、対象を広げた新基準を決めたものの、さまざまな要件を設けたため、手帳を交付されない人が相次ぎました。第2次訴訟の原告は、新基準は違法として撤回を求めています。国は直ちに姿勢を改め、全面解決に踏み出すべきです。

高裁判決に反する新基準

 広島高裁判決は、国が指定した地域以外でも「黒い雨」の被害があったことを認めました。被爆者の該当基準については「原爆の放射能により健康被害を生じることを否定できない」ことを立証すれば足りるとしました。がんなどの発症がなくても被爆者と認められるというものです。「黒い雨」に直接打たれていなくても空気中の放射性微粒子を吸った場合の健康被害の可能性も指摘しました。

 高裁判決確定後、国は新しい基準を決めて昨年4月から運用を開始し、これまで被爆者と認められなかった国の指定地域外の人にも被爆者手帳が交付されました。

 しかし、新基準は▽「黒い雨」に遭ったことが確認できる▽がんなど11疾病にかかっているか白内障の手術歴がある―という2要件を満たさないと手帳交付を認めない新たな線引きをしました。

 幅広い救済を求めた広島高裁判決に新基準が反することは明らかです。同判決以降、3月末までに4696人が手帳の交付を申請しましたが、184人が却下される事態となっています。

 新基準の運用で、「黒い雨」が降ったと推定される地域を広げたとはいえ、依然として推定地域外の被害は確認できないとの立場を変えないことは極めて問題です。国は「黒い雨」について必要な調査をせずに全体像を明らかにしていません。それにもかかわらず、地域外だからと交付を認めないことは違法だと原告は訴えます。

 疾病を要件にしていることも不合理な線引きに他なりません。手帳交付を定めた被爆者援護法に疾病要件はありません。「黒い雨」の被害者を差別的に扱い、救済の対象外にすることは許されません。

 広島高裁判決を受けて上告を断念した当時の菅義偉首相は「(原告と)同じような事情にあった方々については、訴訟への参加・不参加にかかわらず、認定し救済できるよう、早急に対策を検討します」との談話を閣議決定(21年7月27日)しています。国には、高裁判決に立ち返り、さまざまな要件を盛り込んだ新基準を撤回する責任があります。

長崎の被害の差別やめよ

 長崎では原爆投下直後に「黒い雨」に遭ったのに、被爆者と認められない「被爆体験者」が約6千人います。「被爆者と認めてほしい」という「被爆体験者」の思いは切実です。

 長崎県と同市は、広島高裁判決を踏まえ、長崎の被害者を差別しないことを強く求めています。被爆から78年となり、残された時間はわずかです。国はこれ以上「黒い雨」被害の全面解決を引き延ばしてはなりません。


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