2023年5月9日(火)
きょうの潮流
「加害の歴史を含めて、さきの戦争の真実を次世代に伝えたい」。この思いで1991年から長野県飯田市で開催してきた「平和のための信州・戦争展」▼戦争展飯伊地区実行委の取り組みが実を結んで昨年5月、飯田市立の「平和祈念館」が開設されました。目を引く展示は「石井部隊図書」のゴム印が押された書籍『人体解剖学』や古びた医療機器類です。元731部隊員、胡桃沢正邦さんの遺品です▼「石井部隊」とは、石井四郎軍医中将のもと、中国東北部に建国した傀儡(かいらい)国家「満州国」で生体実験と細菌兵器攻撃をした731部隊のこと。同実行委は、91年の戦争展に招いた胡桃沢さんの証言(当時78歳)も撮影し、保存しています▼証言の録画を視聴すると、よどみなく質問に答えていました。「スギでもヒノキでも丸太は素材でしょう。マルタは研究の素材です。素材を使って病原菌を研究する」「マルタは人間で、中国人、蒙古人、ロシア人もいた」。“人体実験は、常識では考えられない”との質問には、軍人勅諭をそらんじて「軍隊では黒いものであっても、上が白だといえば白だと逆らえない」とも▼祈念館で残念なのは、731部隊の説明が全くないことです。同実行委は飯田市に対し戦争展での証言などの成果を生かすように求めています▼「戦争の悲惨さを伝えるには侵略・加害の事実に目をつぶることはできません。市民と行政が連携する平和の発信拠点として充実させたい」。同実行委の唐沢慶治委員長の抱負です。








