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2023年5月8日(月)

金融侵略 苦悩する東芝(2)

「食事ものど通らない」

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(写真)東芝川崎本社事務所や東芝デジタルソリューションズ本社が入るラゾーナ川崎東芝ビル=川崎市

 安部真生(しんは)さんは2015年4月に東芝デジタルソリューションズ(TDSL)に入社しました。研修後に担当したのは協会けんぽ(主に中小企業の従業員が加入する医療保険者)のシステムの運用・保守でした。

 4年後の19年4月、官公庁向けICT(情報通信技術)サービス部門へ異動します。厚生労働省老健局が発注した「科学的介護」システムの開発業務に6月から従事しました。この業務が、真生さんを追い詰めました。

再三のやり直し

 最初に業務を受注しかけた他社は落札前に辞退し、6月に受注したTDSLは2カ月ほどの遅れを抱え込んでのスタートとなりました。他社が3月に入札した計画のまま、期限は20年3月末と設定されたからです。

 真生さんはセキュリティーシステム分野の責任者を任されました。初めてシステム開発業務に携わった真生さんに、この分野の責任が集中しました。

 「科学的介護」システムの構築は、厚労省が進める「データヘルス改革」の一環です。改革の目的は、自治体・保険者・事業者がもつ健康・医療・介護の個人データを収集・連結・蓄積し、「個々人に最適な健康管理」を実現することです。国家を頂点とする監視と干渉のシステムを、医療や介護の現場に持ち込むものです。

 TDSL側は厚労省の仕様書に沿ってセキュリティーシステムの開発を進めました。ところが厚労省は、開発途中で「安全性が不十分だ」と横やりを入れ、ソフトの切り替えなどを要求しました。

 真生さんは計画の変更と見積もりのやり直しを再三迫られました。10月ごろから業務が滞り、深夜に及ぶ時間外労働と休日出勤に追い込まれました。同居していた弟によると、深夜0時前後に帰宅し、早朝6時ごろに自宅を出る生活に陥りました。交際相手には「仕事が大変でろくに眠れない。食事ものどを通らない」と話しました。

時間外は103時間

 11月の初旬には胃腸の不調を訴えて業務を半日抜け、病院で検査を受けました。システム開発が行き詰まっていました。職場のパソコンを使った記録から計算すると、亡くなる直前1カ月間の時間外労働は103時間56分に達しました。

 父親の安部晋弘さんと母親の安部宏美さんは、TDSL社員に話を聞き、弁護士の力も借りて労働災害の証拠を集めました。「トラブルが起きたとき、真生一人に負担が集中する状況を放置したTDSL幹部の責任が大きい」と感じました。

 20年5月、晋弘さんと宏美さんは川崎南労働基準監督署(川崎市)に労災認定を求める申請書を提出します。川崎南労基署は同年12月17日付で労災と認定しました。晋弘さんは「100時間を超す時間外労働が決め手だった」と考えています。

 同月にTDSL役員らが弔問に訪れ、初めて両親に謝罪しました。事件から1年以上が過ぎていました。

 厚労省は経過説明の文書を両親に提示しましたが、責任を認めていません。明らかになっていないことは、もう一つあります。東芝の大規模リストラの影響です。(つづく)


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