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2023年5月7日(日)

金融侵略 苦悩する東芝(1)

若い技術者の自死

 日本を代表する総合電機メーカーだった東芝が苦悶(くもん)しています。経営陣は7月に株式を非公開化することをめざします。外国人株主に支配され、「8年にも及ぶ混乱」(東芝)を経た末の苦渋の選択です。混乱の現場と、その根本原因を探りました。


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(写真)安部宏美さん(右)と安部晋弘さん

 一人の若い技術者が自ら命を絶ちました。2019年11月16日の午後6時49分。晴れた初冬のたそがれ時でした。

 安部真生(しんは)さんは当時30歳でした。東芝グループの中核事業会社の一つ、東芝デジタルソリューションズ(本社・川崎市)で働いていました。

 長野県駒ケ根市に住む父親の安部晋弘(くにひろ)さんに神奈川県警から電話がかかってきたのは、同日午後7時半ごろです。

 「息子さんが意識不明の状態です、といわれました。自宅のマンションの前で倒れているのをみた通行人が通報してきました、と」

 母親の安部宏美(ひろみ)さんはとっさに考えました。

 「心臓の疾患だろうか。脳だろうか」

仕事に苦しんで

 しかし、その後の警察などの調べで、真生さんはマンションの屋上から落下したことがわかります。事件性はなく、死因は「うつ病エピソード」(抑うつ気分、喜びの喪失、自殺念慮などの症状)だったと判定されました。仕事に追い詰められていたのです。

 思いもよらない事態でした。宏美さんは悔やみました。

 「生きていてほしかった。仕事ばかりが人生じゃない。やめていいんだよ、といいたかった。真生の苦しみを知らなかった」

 幼いころから、真生さんはじっくりと考えることが好きな子どもでした。晋弘さんの仕事で海外と国内を転々としても、時間をかけて同級生となじんでいきました。スリランカに1年、バヌアツに3年、ネパールに3年。転居先のインターナショナルスクールに通う間に、努力して英語を習得しました。

「環境」志望動機

 東京大学大学院の農学生命科学研究科で雑草を研究しました。土手に生える草を堤防に利用するにはどうしたらよいか。自然と都市をどう融合させて環境を改善するか。大学院で深めた関心と結びつけて、東芝デジタルソリューションズの志望動機を書きました。

 「社会を人間や人工物、周辺環境が作用し合う一つのシステムとして捉え、理解し、改善していくような職に就きたい」

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(写真)安部真生さん=2018年4月(安部晋弘さん提供)

株主還元偏重の末に

 真生さんの生い立ちを思い起こして、晋弘さんは自分を責めました。

 「私たちの育て方が悪かったのかなと考えました。小さなころから海外に連れて行き、人の顔色をうかがって無理をすることを覚えさせたのは私ではないか。親の務めを十分に果たせなかったのではないか。申し訳なかった、という気持ちはいまでもあります」

 けれども、自省してばかりではいられませんでした。関係者に話を聞けば聞くほど、労働災害の疑いが濃くなったからです。晋弘さんと宏美さんは2年以上の月日を費やして、真生さんが自死に至った経緯を調べました。

 1990年代後半から東芝は、株主還元を偏重する新自由主義的経営にかじを切り、目先の利益確保を狙った事業の切り売りや人員削減を繰り返してきました。同時に、株主に占める外国人の比重が増していきました。

 原発事業の大失敗が災いし、外国人株主の持ち株比率が7割を超えた2018年以降、海外の「物言う株主」の要求に振り回されます。株価上昇に資する経営改革を求め、議案提案権などの権利を行使するのが「物言う株主」です。

 この二十数年間で、東芝は急速に衰退しました。売上高は5兆9513億円(2001年3月期)から3兆3369億円(22年3月期)へ、連結会社の従業員数は18万8千人(01年3月)から11万6千人(22年3月)へ激減しました。

 一連の経過の根底には、米国主導で進められた金融制度や会社制度の新自由主義的改変がありました。日本のものづくりを衰退に導いた「金融侵略」の構造に迫ります。(つづく)

 (9回連載です)


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