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2023年4月23日(日)

主張

知床・沈没事故1年

悲劇の教訓生かされているか

 北海道・知床半島沖で観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没した事故から23日で1年です。乗客乗員26人のうち20人が死亡し、6人がいまも行方不明です。

 いくつもの法令に違反して安全対策を怠っていた運航会社「知床遊覧船」の実態が次々と明らかになり、大問題になりました。同社のずさんな安全管理を見抜けなかった国土交通省の責任が厳しく問われています。悲劇を繰り返さないために、国の安全管理体制の不断の検証と対策の抜本的な強化が求められます。

ずさんな安全管理見逃す

 運輸安全委員会は昨年12月に公表した経過報告書で、カズワンが沈没した直接の要因として船首甲板部のハッチの不具合が船内に大量の海水が流れ込む契機になった可能性を挙げました。

 国の検査を代行する日本小型船舶検査機構(JCI)は事故3日前、法律に基づく年1回の検査をカズワンに対し行っています。しかし、ハッチに関係する作動確認は省略されていました。船の安全性を確保する上で重要な設備がチェックされなかったことはあまりに深刻です。

 この日の検査では、カズワンの船長から、陸上と通信する無線設備を衛星電話から携帯電話に変更すると申請が出され、認められました。航路のほとんどが通信圏外だったのに、船長の「つながる」という発言が根拠でした。

 北海道運輸局が沈没事故前年に同社に行った検査も多くの問題があります。同社では過去にカズワンや別の船が座礁事故などを起こし行政指導をされています。しかし、同社が提出した改善報告書の運航記録簿に記された風速や波高で同じ数字が並ぶ不自然さがあったのに、運輸局は問題にしませんでした。改善状況確認のための無通告訪問も、桂田精一社長が不在だったため電話で話を聞き、それで意識の向上が確認できたなどとしました。説明をうのみにするのでは、検査の意味をなしません。

 事故の被害者家族と弁護団は20日、記者会見し、共同声明を発表しました。声明は、桂田社長が家族に向き合わず、責任逃れをしていると批判するとともに、「国やJCIが知床遊覧船に対する監査や検査を通じて、ずさんな安全管理体制を是正することができなかったことが、今回の事件を招いた」と強調しています。

 国交省の知床遊覧船事故対策検討委員会は昨年12月、報告書をまとめました。検査の実効性向上のため、国とJCIの検査方法の見直しなどを記しています。同省は2023年度予算で検査を担当する人員の増員などを盛り込みました。これで十分な体制が整ったといえるのか。教訓を踏まえ検証し、国が責任を持って安全を守る仕組みをつくることが必要です。

規制緩和政策の見直しを

 事故の背景にある国の規制緩和政策の見直しは不可欠です。1995年の海上運送法の改定で、遊覧船事業などへの新規参入が容易になりました。それに伴い事業者は増加し、宿泊業など異業種からの参入も少なくないとされます。悪質な事業者の参入も食い止めることが困難になりました。国のチェックも追い付きませんでした。海の安全に逆行する規制緩和路線を根本から反省し、事業者任せにしない政策に転換すべきです。


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