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2023年4月12日(水)

主張

日銀新体制の始動

10年間のゆがみを正してこそ

 日本銀行総裁に植田和男氏が9日就任しました。黒田東彦前総裁の下で2013年から続けられてきた「異次元の金融緩和」の弊害はきわめて大きく、経済、財政、金融をゆがめた政策を正すかどうかが新体制に問われます。

金融頼みで経済回復せず

 異次元緩和はアベノミクスの「第1の矢」と位置づけられました。年2%の物価上昇を目標にして民間金融機関が保有する国債を日銀が買い取り、大量のお金を供給すれば、経済の好循環が生まれるという政策です。

 金融市場でお金が急増したことによって株価はこの10年で2倍に上昇し、大企業や富裕層が恩恵を受けました。その一方、実質賃金は年収にして20万円も減り、好循環どころか格差が拡大しました。外国為替市場では円安が加速し、急激な物価高が国民や中小企業を苦しめています。

 日銀が保有する国債は10年間で9倍に増え約580兆円に膨らみました。国の借金の50%以上を日銀が引き受ける異常事態です。通貨や財政に対する信認が失われれば、インフレや財政負担でつけを払わされるのは国民です。

 日銀がお金の供給を増やしても民間銀行から企業への貸し出しは活発化しませんでした。実質賃金の低下や消費税増税で景気が冷え込んだためです。銀行が日銀に持つ日銀当座預金の残高が積み上がっただけでした。

 16年には日銀当座預金の一部にマイナス金利を適用する政策まで導入しました。銀行がマイナス金利による損失を顧客にしわ寄せするなど、弊害が生じています。

 10年間の国内総生産(GDP)成長率は年平均で0・5%程度にすぎません。金融頼みで経済を回復できなかったことは明白です。

 異次元緩和の一環として、大企業の株式で構成する投資信託(ETF)を日銀が大量に買い入れ、公的年金の積立金による株式投資とあわせて株価をつり上げてきたことも、他の主要国の中央銀行が行わなかった異例の政策です。株価が暴落すれば日銀が債務超過となるリスクがあります。

 植田総裁は10日、就任後初の記者会見で、異次元緩和について「現状では継続する」と明言しました。金融緩和が長期間続いていることについて「点検や検討があってもよいかと思う」と述べつつ、2%の物価上昇の実現をめざす緩和政策は引き継ぐ姿勢です。

 異次元緩和の出発点となった13年1月の政府と日銀の共同声明についても植田総裁は「直ちに見直す必要はない」と表明しました。岸田文雄首相は同総裁と会談して共同声明を再確認しました。

問われる岸田政権の姿勢

 新体制が初めて政策を決定する金融政策決定会合は27、28日に開かれます。国債の利回りにゆがみを生じている長期金利の抑制政策が見直されるかが市場関係者の間で注目されています。しかし今求められているのは、それだけでなく異次元緩和の見直しです。

 日銀が「物価の安定」という本来の使命を果たすためには、10年間の政策破綻に目をつぶることはできません。真剣な反省の上に転換の方向を示す必要があります。

 岸田政権の姿勢も重大です。金融頼みから脱け出し、賃上げをはじめ実体経済の回復に取り組まなければなりません。


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